資格試験や講習で度々「水トリー現象」という言葉を聞いたことがあるかと思います。
みなさんは実際に水トリー現象を起こした現場に遭遇したことはありますでしょうか?
私は竣工7年後の現場で高圧ケーブルが水トリー現象を起こし、引き換え工事を行いました。
事象としては地絡による全館停電で、ケーブルの交換推奨時期にまだ満たないケーブルでした。
このように水トリー現象は事故に繋がるため、ケーブル敷設時、点検時共に十分に配慮しなければなりません。
水トリー現象とは何が原因でなり、どんな対策を講じなければならないのでしょうか。
今回は水トリー現象について解説していきます。
水トリー現象とは?
水トリー現象とは、ケーブルが絶縁破壊に至る前兆の現象です。
ケーブル周辺の水分と局所的に集中した電界が原因で、絶縁体である架橋ポリエチレンが樹枝状に亀裂が発生した状態です。
水分の多い環境で長時間通電を継続した際、ケーブル内の突起や隙間の遺物などが原因で一定である電界が不均一となる部分を起点に、侵食するように亀裂が進行していきます。
木の枝のように進行していくので「ツリー」→「トリー」とこのような名前がつけられています。
水トリー現象には次の3種類があります。
・内導水トリー・・・内部半導電層に発生し、そこの突起から外部に侵食していきます。
・外導水トリー・・・外部半導電層に発生し、そこの突起から内部に侵食していきます。
・ボウタイ状水トリー・・・絶縁物中に製造過程でできるわずかな隙間から侵食していきます。
外導水トリーと内導水トリーは、内外半導電層に導電性テープを用いた場合が多く、布テープのケバケバなどの突起物を起点として発生します。
ボウタイ状水トリーは、絶縁体中のボイド(気泡)遺物を起点として発生します。
この水トリー現象が発生するとケーブルの絶縁性能が著しく低下し、放置すると亀裂が大きくなり「ピンホール」という現象が発生します。
ピンホールは絶縁体に丸く穴が空いた状態です。
その結果、導体と遮蔽層が導通し、地絡事故へと繋がることとなります。
水トリー現象の発生原因
水トリー現象はケーブルの絶縁体中や各層間の隙間、水気、電界が原因となって発生します。
特に地中埋設などの浸水する可能性のある電路は注意が必要です。
・隙間による原因
ケーブルを敷設した際にケーブルが擦れたり外傷を受けたり強い力がかかると絶縁体にわずかな隙間が生じます。
また、屈曲作用や繰り返し応力が原因となることもあります。
他には製造過程で異物や気泡が混入してしまうことで隙間が生じることがあります。
この隙間が原因でそこから水トリーが進んでいきます。
・水気による原因
高圧ケーブルは建屋外部のPASやUGSからキュービクルに引き込まれます。
そのため、地中内の配管とハンドホールを通って敷設されますが、ハンドホール内に水が溜まりそこに高圧ケーブルが浸かっている状態ですと水トリー現象を起こす可能性が高くなります。
一応高圧CVケーブルはこのような過酷な状況に耐えられますが、あまり良い状態ではありません。
・電界による原因
雷撃による雷サージや遮断器の開閉による開閉サージによる系統に発生する異常電圧が原因によるものです。
その他、化学薬品や油が混じった水に触れていたり(化学トリー)、負荷電流の大幅な変動などの熱的な原因で水トリー現象の進行を早めてしまうこともあります。
水トリー現象による事故
水トリーが進行すると、導体部とシース部が導通状態となり高圧地絡へと発展します。
地絡するとUGSやPASにて地絡保護の継電器が働き全館停電となります。
地絡した物件の全館停電で済めばいいですが、昔の設備などで責任分界点に保護継電器が設置されていないと地絡状態が継続し、送電側で電源が遮断され周辺地域が停電する波及事故となります。
賠償責任まで発展する可能性がありますので、地絡する前に防止策を講じなければなりません。
水トリー現象の対策
水トリー現象が進行し、地絡してしまったら高圧ケーブルを交換するしかありません。
交換工事の間、建物全体の電気が使えなくなりますので、年次点検やその他の工事において事前に水トリー現象に留意します。
水トリー現象を発生しにくくするには、高圧ケーブルの敷設環境を整え負担を少なくすることが重要となります。
・電源遮断操作に留意
年次点検や工事の際に負荷状態(電流が流れている状態)でなるべく電路を遮断しないことです。
負荷状態で開路すると開閉サージの発生原因となります。
・ケーブルを水に浸さない
これが一番の発生原因となります。特にハンドホール内は定期的に確認し、水に浸っていないか確認しましょう。
水に浸っている場合は土台を作るなどの対策を講じることをおすすめします。
また、科学薬品が混じった水分は特に水トリー現象を発生しやすいと言われていますので、工場や研究所などでは注意が必要です。
・EEケーブルを使う
高圧ケーブルには外部半導電層の材質の違いにより、ETケーブルとETケーブルとにわかれます。
ETケーブルに比べEEケーブルは水トリー現象に強い作りとなっています。
ETケーブルの外部半導体電層はテープを巻きつけているのに対し、EEケーブルは押し出し加工をしているためテープ巻きに比べ浸水および異物混入がし難い構造となっています。
EEケーブルは過酷な環境に敷設される、鉄道や電力プラントに使用されていましたが、一般的な建物でも特に水が浸かる状況ではEEケーブルを使用することが推奨されます。
ケーブルメーカーによると出荷の割合が断然ETケーブルのが多いそうですが、ケーブルの単価も大きく変わらないので事故後の保証等を考慮するとEEケーブルを使用することをおすすめします。
一点、EEケーブルは可とう性が悪く、端末処理の手間が多くなりますので状況に応じて判断することになりますね。
出典:住電HSTケーブル(株)技術資料
最後に
高圧CVケーブルは環境や製造過程によって水トリー現象が発生し、交換推奨時期以前に地絡が発生するという事例もあります。
ある製造年のあるメーカーのケーブルは地絡事故が多いなどの話もありますので、使用するケーブルを十分検討し水トリー対策をすることをおすすめします。
また、年次点検の絶縁抵抗測定値が数MΩなどの低い数値でしたら水トリーを疑い、早いうちにケーブルの引き換えを検討するといいかと思います。
やはり、事故が起こってからの保証や賠償と比べると工事やケーブルの値段などは安いものです。
この記事が現場のお役に立てれば幸いです。
それではまた、ご安全に!