病院で診察をしたり工事に入った際に、色の付いた珍しいコンセントを見かけたことはないですか?
これは、「医療用コンセント」といい、一般的なコンセントに比べて高い性能となっています。
医療機器を使用するためのコンセントですので、工事をする立場使用する立場においても正しい知識が必要となります。
今回は、医療の現場にとって大変重要となる「医療用コンセント」について詳しく解説していきます。
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医療用コンセントとは
病院では、手術や治療を受ける患者さんを電気的なリスクから守るため、また医用機器の重要データ損失を防ぐために、一般的な施設よりも高い安全基準が定められています。
コンセントにおいても、JIS規格により、仕様と施工について規程しています。
病院、診療所等において、医療用電気機械器具を使用する部屋に施設するコンセントは、接地極付きのものを使用すること。
(注)コンセントは、JIS T1021(2008)「医用差込接続器」に適合するものを使用し、JIS T 1022(2006)「病院電気設備の安全基準」に基づいて施工するのがよい。
内線規程 3202-3-5
内線規程において、医療用に使用するコンセントは、接地極付きのものを使用し、仕様はJIS T1021(2008)「医用差込接続器」に適合し、施工はJIS T 1022(2006)「病院電気設備の安全基準」に基づくとよいとしています。
医療用コンセントの特徴
高度な性能が要求される
医療の現場では、患者の血管内にカテーテルなどを挿入した際、カテーテルと体表との間に漏れ電流が流れることで、直接心臓を刺激する「ミクロショック」や、医療器具などから皮膚を通して電撃を受ける「マクロショック」を起こす可能性があります。
これらを防止するため、病院や診療所などで施設される医療用電気機械器具は、適切な接地を施す必要があります。
この関係から、JISで規程する医療用コンセントは、一般的なコンセントに比べて高い性能を要求される形となっています。
一般用コンセントと医療用コンセントの主な性能を比較すると下の表のとおりとなります。
項目 | 医療用コンセント | 一般用コンセント |
適用JIS | JIS T 1021「医用差込接続器」 | JIS C 8303「配線用差込接続器」 |
衝撃強度 | 質量2.3kgの鋼製円柱型おもりを 60cmの高さから落下させ耐えること | 規程なし |
耐異常引抜性 | コンセントに差し込んだ鋼製の 試験用差込プラグに衝撃を加えた 時に有害な異常がないこと | 規程なし |
接地極の接触抵抗 | 10mΩ以下 | 50mΩ以下 |
アンモニアガス耐久 | 72時間耐えること | 21時間耐えること。 |
開閉性能(定格20A以下) | ・過負荷試験 開閉の割合最大10回/分 開閉回数 100回 ・定格負荷試験 開閉の割合20回/分 開閉回数10000回 | ・過負荷試験 開閉の割合最大10回/分 開閉回数 100回 ・定格負荷試験 開閉の割合20回/分 開閉回数5000回 |
この他にも、JIS T 1021の中で様々な要求がされていますが、比較表のとおり医療用コンセントは一般用コンセントよりも高い性能が求められていることがわかります。
医用コンセントは白、赤、緑など色の指定がある
JIS T 1022により外郭の色を具体的に指定している点も、医療用コンセントの特徴です。
輸液ポンプや心臓ペースメーカーなど、医療用器具の電源喪失は人命に大きく関わります。
災害などの有事の際にも、医療機器に電源を供給し続けるために、医療用コンセントには様々なバックアップ電源設備が準備されています。
使用する機器の重要度により使用するコンセントを使用する必要がありますが、医療用コンセントは色分けすることで容易に電源の種類を判別できるようになっています。
JIS T 2021の内容をまとめると下の表となります。
電源の種類 | コンセント標識 |
商用電源 | 白 |
一般非常電源 | 赤 |
特別非常電源 | 赤 |
瞬時特別非常電源 | 赤 |
瞬時特別非常電源 (交流無停電電源装置から 供給される場合) | 緑 |
非接地回路 | 茶(例) |
表の電源の種類については以下のとおりです。
非常電源 | 内容 |
一般非常電源 | ;商用電源が停止した時、40秒以内に 電源供給可能な電源で、発電機と原動機で 構成する自家用発電設備。 ・原動機の例として、ガスタービンエンジン、 ディーゼルエンジン、ガスエンジンがある。 |
特別非常電源 | ・商用電源が停止した時、10秒以内に電力供給 可能な電源で、発電機と原動機で構成する 自家用発電設備。 ・原動機の例として起動時間の短いディーゼル エンジンがある。 |
瞬時特別非常電源 | ・商用電源が停止した時、0.5秒以内に電力供給 可能な蓄電池設備又は無停電電源装置と自家用 発電設備を組み合わせた複合電源。 |
このようにコンセントの電源別に色分けされています。
商用電源は、私たちが住宅や一般施設で使用するバックアップのない一般的なコンセントで、病室や共用部などの一般的な用途で使用されます。
医用機器については、商用電源→特別非常電源→瞬時特別非常電源→瞬時特別非常電源(交流無停電電源装置から供給される場合)の順(白→赤→緑)でバックアップの信頼度が高くなっていますので、使用する機器の重要度に応じて選択されます。
無停電電源装置(UPS)とは、充電したバッテリーを備えており、商用電源から停電などの理由でバックアップ電源に切り替わる際に、無瞬断で切り替えることができる装置です。
非常用発電機は、エンジンが始動して電圧確立するまでに数秒〜数十秒時間がかかりますが、無停電電源装置は無瞬断ということで信頼度が高いため、一瞬でも停電を許さない機器の回路に使用されます。
無停電電源装置・・・商用電源からバックアップ電源の切り替えが無瞬断
茶色(チョコ)の医用コンセントは非接地回路用
また、茶色のコンセントは非接地回路に接続するコンセントとなっています。
JIS T 1022では非接地回路に接続するコンセントに対して具体的な色は指定していませんが、「他の配線方式と識別できるように」と規程していることからJIS T 1022で規程されている白、赤、緑以外の色ということで、一般的には茶色が使用されます。
非接地回路とは、高圧トランスのB種接地を電路に直接接続せずに、混触防止板に接続することにより電路と大地が絶縁された回路となります。
一般的には漏電した電流はトランスのB種接地経由で帰還しますが、非接地にすることで漏電した電流の帰路が断たれる形となり漏電遮断器が動作しなくなります。
漏電遮断器の動作原理は、地絡した電流の相間の電流差で検出しますので、地絡しなければ漏電遮断器が動作することはありません。
医用室に必要な、監視装置などの設備が漏電によってブレーカーが落ちてしまうと大変ですが、非接地回路にすることによって電源の供給を継続できます。
しかし、医療機器の電源担保により漏電が継続することは問題ですので、アイソレーションシステムを構築し常に絶縁監視装置で監視し、漏電があった際には警報を出すようにしています。
非接地回路・・・漏電遮断器を動作させないために、高圧トランスの電路に直接B種接地をしていない回路
その他必要な表示
電源の種類 | その他必要な表示 |
商用電源 | ー |
一般非常電源 | ー |
特別非常電源 | 見やすい箇所に「特別非常電源」を表示 |
瞬時特別非常電源 | 見やすい箇所に「瞬時特別非常電源」を表示 |
瞬時特別非常電源 (交流無停電電源装置から 供給される場合) | 見やすい箇所に「瞬時特別非常電源」を表示 |
特別非常用電源に接続するコンセントは色による標識の他に、見やすい箇所にその旨を表示することになっています。
具体的には、コンセントプレートの上部に「特別非常電源」を表示し、コンセント本体には医療用コンセントのJISに適合していることの明確化としてHマークが表示されます。
医療用コンセントはアース付きの3Pでリード線仕様
医療用コンセントのコンセントは差し込みの穴が3つありますよね。
一般的なコンセントは2つ穴ですが、3つ穴の一つはアース(接地)になります。
2つ穴を2P、3つ穴を3Pといいます。
住宅の洗濯機や電子レンジ用の接地付きコンセントは、機器プラグから出ているリード線をコンセントのアースターミナル端子に接続しますが、医用機器はプラグにアースの刃が一体化していますのでコンセントに差すだけでアースを取ることができます。
また、JIS T1021にてコンセント本体にアースの電線を接続する箇所は、速結端子ではなくリード線となっています。
医用コンセントの接地端子は、リード線付きとする。リード線はJIS C 3307又はJIS C 3612に規定する長さ約150mm、公称断面積2.0㎟以上で絶縁体が緑及び緑のしま模様であって、鋼製の圧着端子によって医用コンセント本体の接地導体に堅固に圧着又はかしめによって取り付ける。
JIS T 1021 7-1-a
コンセント本体から出ているリード線と電線を、リングスリーブで圧着する必要があります。
実際にコンセントを取り付ける電気工事士にとっては一手間となりますが、接地の品質担保には変えられません。
医療用コンセントが逆さまに設置されているのはなぜ?
JISの規程ではありませんが、場所によっては医療用コンセントを逆さまに取り付けてあります。
この施工方法は、医療用コンセントが外部からの物理的影響による電源喪失となることを防止するための配慮です。
医療用コンセントに接続する機器は重要な設備となりますので、小さな可能性であっても事故の可能性を0に近づける必要があるためこのような施策をとります。
以下に、二つの事故パターンを紹介します。
金属等の落下による短絡の防止
コンセントの差し込みが甘いと、プラグとコンセントの間に隙間ができます。
その隙間にクリップやホチキスの芯などの小さな金属体が落下し、プラグの2極間が接触することによって短絡となります。
短絡すると一瞬で大電流が一時側に流れますので、上位のブレーカーがトリップしコンセントの電源が喪失してしまします。
このような事象の防止策として、コンセントを逆さまに設置しておけばアースが上になりますので電源同士の相間が接触する可能性が低くなります。
物の落下によるコンセント抜けの防止
コンセントに挿したプラグの上に仮に重いものが落下すると、衝撃でプラグが抜けたり、抜けかけたりします。
プラグが完全に抜けてしまうともちろん電源喪失となるのですが、完全には抜けずに抜けかけの場合を想定します。
コンセントを逆さまに設置すると、アースが上になりますのでプラグが抜けかけの状態になっても、アースのみがコンセントから抜け、電源部分は抜けずに済む可能性があります。