今回はこの二つの変圧器を比較したメリットデメリットを紹介していきたいと思います。
変圧器(トランス)は特高から高圧、高圧から低圧といったように電圧を変成する機器で、受変電設備では一番大きくメイン機器となるため設備スペースを大きくとります。
そのため電気工事の計画においては重要となりますので是非選定の参考にしていただければと思います。
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油入変圧器
出典:三菱電機
まず油入変圧器の構造ですが、中には磁束を通す鉄心に電流を導く巻線(コイル)が巻かれていて、巻線と鉄箱の間は絶縁油で満たされています。
最も経済的で古くから使われているため、モールド変圧器に比べると現場で目にする機会が多いかと思います。
基本的には油入変圧器を選定前提とし、「不燃化」「省スペース」などの特別な理由がある場合にモールド変圧器を選定するといった感じです。
メリット①過負荷耐量が高い
モールド変圧器と比べると過負荷耐量が圧倒的に高いです。
高い絶縁性能がある絶縁油で満たされているためです。
特高変圧器になると高い絶縁耐力を要求されるため圧倒的に油入変圧器が多くなります。
これが油入変圧器の最大のメリットであり油入変圧器がなくならない理由です。
メリット②保安面で優れている
油入変圧器はメンテナンスや工事をする場合に感電する恐れが少ないといった面で優れています。
コイルと外箱の間に高い絶縁性のある絶縁油で満たされているため外箱の電位がゼロになっています。
また、仮に絶縁油が絶縁破壊されて外箱が充電されてしまっても、外箱は金属製でA種接地が施されているため安全です。
メリット③設置できる場所が多い
油入変圧器は金属製の外箱で覆われているため、屋外などの過酷な条件にも対応できます。
また、外箱に放熱フィンがついているため熱放散の効果が大きいです。
そのため気温が高くなる場所や雨にさらされる場所でも設置可能となっています。
特高変圧器は屋外に設置することが多いのでこちらの面でも油入変圧器が多くなります。
メリット④騒音が小さい
巻線が絶縁油に覆われているため、通電時の振動が緩和されます。
油入変圧器メリット
・強力な絶縁耐力がある
・感電の心配がないから安心
・頑丈で丈夫なため設置場所に困らない
・騒音が小さい
続いて油入変圧器のデメリットです。
デメリット①重量が重く大きい
油入変圧器は、鉄心、巻線、絶縁油と金属箱があるため重量が重く大きくなります。
寸法が大きいので設備スペースを広くとらなければならないので十分な計画が必要です。
重量の面では重いので建物の構造体が十分に耐えられる性能が有するか確認が必要です。
設備更新の際には工事が大掛かりになりコストがかかります。
また、廃材処理の際は外箱から絶縁油を抜き取らなければならないので手間となります。
デメリット②メンテナンスの必要がある
コイルを覆っている絶縁油は長年使用すると、経年劣化し絶縁性能が低下します。
絶縁破壊の危険性や安定的に電力供給できなくなる恐れがありますので、定期診断に加え劣化判定されれば交換しなければなりません。
また、キュービクルに換気ファンがある場合は清掃にもコストがかかります。
このようにランニングコストがかかる面がデメリットです。
デメリット③火災の心配がある
絶縁油は可燃性のため発火により火災の原因となる場合があります。
設置の際は危険物に該当するかどうか所轄の消防に事前協議が必要です。
消防が危険物と判断すれば消化器の設置が求められます。
油入変圧器デメリット
・重量、寸法が大きい
・メンテナンスが必要でランニングコストがかかる
・絶縁油による火災の心配がある
モールド変圧器
出典:三菱電機
モールド変圧器は、油入変圧器の欠点である火災事故の回避や重量の軽量化を目指して開発されたもので「乾式変圧器」とも呼ばれています。
油入変圧器と異なり鉄心が露出し、巻線がエポキシ樹脂等によりモールドされています。
絶縁油は使用せず絶縁を空気で行う変圧器となっています。
近年、このような利点から徐々に普及し、主に不燃化を求められる病院やオフィスビルや地下に採用されている変圧器です。
また、小型ですのでキュービクル内の更新改造等によるどうしても変圧器が収まりきらない際に選定すると活躍します。
メリット①重量が軽くて小型
モールド変圧器は絶縁油を収納する部分が不要で、巻線と鉄心のみなので重量は軽く小型になります。
設備スペースが限られる物件などに適し、設備更新の際の搬出も容易になります。
メリット②火災の心配がない
油入変圧器と違い絶縁物は空気ですので火災の心配がありません。
そのため、病院等の防災に重点を置く施設に多く採用されます。
また、消火設備の設置基準が緩和されますのでコストにも優しいです。
メリット③メンテナンス不要
絶縁油の定期点検や交換が不要ですので、ランニングコストを抑えることができます。
また、粉塵が付着しにくく耐湿性が良いため簡易的な保守点検で問題ありません。
ポイント
・重量が軽い小型
・火災の心配がない
・メンテナンス不要
デメリット①感電に注意が必要
モールド変圧器は油入り変圧器と違いコイルの絶縁を空気に頼っていることになります。
コイルが露出しているので感電の危険性が非常に高いです。
コイルはモールド樹脂で覆われているので一見感電しないように思われますが、コイルと樹脂層でコンデンサを形成します。
さらに対地静電容量により対地間に電位差が生まれ帯電します。
6600の高圧用モールド変圧器では3800Vを超える高い電圧がかかると言われていますので、直接充電部に触れないような措置が必要になります。
デメリット②設置できる場所が少ない
モールド変圧器の設置場所は前述のコイルが露出しているという理由や結露による表面汚損による絶縁劣化が懸念されるため、基本的には室内となります。
狭い建物ですとキュービクルを屋上に設置することが多いので不向きとなります。
どうしても屋外で計画する場合は結露対策をしかっりと実施しなければなりません。
デメリット③騒音と振動が大きい
油入変圧器と比べると騒音と振動を吸収しにくい構造となっています。
キュービクルや建物躯体に振動や騒音が伝わるため防振ゴムや防振架台等による対策が必要です。
また、騒音は郊外にまで伝わりクレームとなる可能性がありますので、周辺環境を考慮した設置場所の検討が必要となります。
モールド変圧器デメリット
・感電の危険性がある
・設置場所が限られる
・騒音が大きい
最後に
変圧器は上記の二つに大別できますが、コストや設置場所を考慮するとまだまだ油入変圧器の出荷量が多い印象です。
モールド変圧器は選定時にしっかりと吟味し、ここぞといった時に選定するとよいでしょう。
以上、変圧器の選定のお役にたてれば幸いです。
それではまた、ご安全に!