一定規模以上の物件には、防火区画が存在します。
法令により定められた壁や床に対し、電気工事を施工する上で留意しなければならない事項があります。
基本的には穴を開けた貫通部に対する「防火区画処理」となりますが、認定された正しい施工方法で行う必要があります。
今回は、防火区画とその処理方法、材料について説明していきたいと思います。
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防火区画とは
防火区画とは、建築基準法施工令第112条「防火区画」により定められており、一定の規模、用途、条件により、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けた耐火構造の壁や床、設備で区画することになっています。
火災が発生した際は人命を第一優先にする必要がありますが、規模が大きな建物ですと外部までの避難経路が長かったり、建物の構造を把握できていない人がいますので逃げ遅れる可能性があります。
防火区画は、燃えにくい建材を使用したり、区画外に煙が流出しないように開口や隙間を作らないように工夫がされていますので、人が避難する時間を確保することが可能となるのです。
火災の被害を最小限に抑えるために、炎や煙を区画内に閉じ込めるというのが防火区画の基本的な考え方です。
そのため、防火区画に使用される壁や床は、耐火構造や準耐火構造といった国土交通大臣が認めた建材や工法を使用しています。
防火区画の判断方法
現場では防火区画の壁を区画壁といったりしますが、区画壁の判断方法はいくつかあります。
一つは、壁に使用されている石膏ボードの厚みです。
1時間耐火で、ボードを2枚貼りしている壁は防火区画の可能性が高いです。
15mm×2枚や21mm×2枚などの厚めのボードを2枚貼りしている場合は確実に防火区画でしょう。
二つ目は壁が天井裏まで立ち上がってスラブまである壁です。
更にスラブと壁の取り合い部分をコーキングで埋めているような壁は防火区画の可能性が高いです。
三つ目は、防火扉が設置されている壁です。
防火扉のような防火区画に使用される設備であることから、防火区画壁であることが想定されます。
このように電気工事の貫通工事を施工するにあたり、防火区画かなと思った際は、防火区画の平面図を入手して確認し貫通処理を実施しましょう。
電気工事の防火区画貫通処理
貫通は防火区画を壊す行為
電気工事を施工するにあたり、配線などを防火区画内で全て完結させるというのは無理な話です。
そのため、配線や配管を防火区画の壁や床を穴を開けて貫通させる必要があります。
防火区画は認定を受けた特別な部分ですが、貫通するためには一度穴をあけることになりますので言い換えればそこを壊してしまう行為となります。
そのように開口した部分を耐火構造とするために、開口した後はしっかりと国土交通大臣認定の材料と工法で「区画貫通処理」をする必要があります。
特に新築工事では、建築確認検査でチェックが入り、隠蔽部など場所によっては是正が困難となることもありますので注意が必要です。
以前は金属管を1m突き出して耐火パテ処理していた
区画貫通処理の方法として、建築基準法施行令では次のように規程しています。
給水管、配電管その他の管の貫通する部分及び当該貫通する部分からそれぞれ両側に1メートル以内の距離にある部分を不燃材料で造ること。
建築基準法施行令第129条2の4第7項のイ
この規程により、以前は防火区画のケーブル貫通部は金属管を両側に突き出し、管口は耐火パテで処理する方法が主流でした。
耐火パテとは、電気工事で管口の処理でよく使用するネオシールが不燃性となったものです。
粘土状のシール剤で、ネオシールとほとんど見た目も質感も変わりません。
用途はネオシールと同様、管口の隙間を埋めるために使います。
この工法は現在でも有効ですが、金属管を1m突き出す必要があるため施工性が悪く、天井裏の状況から物理的に不可能な箇所もあるため現在は下に紹介するフィブロック工法が主流となりました。
フィブロックの登場により施工が省力化!
区画貫通処理の方法として、建築基準法施行令では次のように規程しています。
防火区画等を貫通する管に通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後二十分間(第百十二条第一項若しくは第四項から第六項まで、同条第七項(同条第八項の規定により床面積の合計二百平方メートル以内ごとに区画する場合又は同条第九項の規定により床面積の合計五百平方メートル以内ごとに区画する場合に限る。)、同条第十項(同条第八項の規定により床面積の合計二百平方メートル以内ごとに区画する場合又は同条第九項の規定により床面積の合計五百平方メートル以内ごとに区画する場合に限る。)若しくは同条第十八項の規定による準耐火構造の床若しくは壁又は第百十三条第一項の防火壁若しくは防火床にあつては一時間、第百十四条第一項の界壁、同条第二項の間仕切壁又は同条第三項若しくは第四項の隔壁にあつては四十五分間)防火区画等の加熱側の反対側に火炎を出す原因となる亀裂その他の損傷を生じないものとして、国土交通大臣の認定を受けたものであること。
建築基準法施行令第129条2の4第7項のハ
各メーカーが、国土交通省大臣認定を受けた、施工の省力化を考慮した製品を販売するようになってから、現在はメーカー製品を使用した防火区画貫通処理工法が主流となっています。
電気工事の防火区画貫通処理は、フィブロックと耐火パテを組み合わせて使用します。
フィブロックは、積水化学工業から販売されている国土交通大臣の認定を受けた防火区画貫通処理専用の材料です。
フィブロックは炎により熱が加わると、自ら膨張し隙間を埋めるとともに断熱層を形成しますので、開口等の手を加えた防火区画においても炎と煙をシャットダウンすることが可能です。
認定工法は、随時新しいものが開発されていますので、施工前に方法を確認して認定工法で施工するようにしましょう。
主な区画貫通処理を下に紹介します。
電気工事で使用するフィブロックと施工方法
PF管やケーブルの貫通
PF管を貫通させる場合とケーブルを貫通させる場合の施工方法は同じです。
使用する材料は、フィブロックのPF管テープ TBCZ014、PF管シート SBCZ001、耐火パテの三つを使用します。
緑色の印字が特徴です。
金属管の貫通
金属管に使用するフィブロックはテープのみとなります。
配管のサイズによりサイズが3種類あります。
青色の印字が特徴です。
ケーブルラックの貫通
ケーブルラックを貫通させる場合は、開口が大きくなるためバックアップ材として「プロセレクトボード」というスポンジ状の材料を開口の形に切断してはめ込みます。
資材金具でプロセレクトボードを固定した後、付属のプロセレクトパテでケーブル周辺の細かい隙間を埋めていきます。
コンセント、スイッチボックスの建て込み
スイッチやコンセントを設置する場合も、設置部分が開口となりますので処理が必要になります。
防火区画に使用するボックスは、耐火性の金属製ボックスが基本です。
SWボックス用フィブロックはボックスの淵と正面に貼り付けます。
中空壁の場合やボックスと同じ側にケーブルが貫通する場合は、フィブロックNEOを別で使用します。
フィブロック施工時の豆知識
次の事項は、メーカー主催のフィブロックの講習を受けた際にいただいた情報です。
捕縛に使用する針金について
配管用のフィブロックは、シートを巻きつけて固定するための針金が付属しています。
針金については、認定工法として金属製のものであれば問題ないとのことですので、例えば電線の芯線は銅ですので電線で縛っても大丈夫です。
AEケーブルの電線などはちょうど針金くらいのサイズですのでおすすめです。
付属の針金を紛失してしまった際は試してみてください。
認定シールについて
フィブロックには、国土交通大臣認定の証となる「認定シール」を見やすい箇所に(壁など)貼ることが基本となります。
しかし、認定シールがないからといって認定と認められないわけではないとのことです。
あくまで第三者に分かりやすくするもので、シール自体が許可となるものではなく、認定は材料と工法で既に取れているからです。
もちろん基本的には貼るものですので、わざわざ貼らないことはしなくていいですが、劣化で剥がれた際に認定から外れたということはないので、そこの心配はしなくても問題ありません。
空配管の処理について
将来用に準備した空配管や、改修工事でケーブル撤去の際に空になった配管であっても、もちろん区画貫通処理を施す必要があります。
しかし、フィブロックの禁止事項ととして空配管による施工があります。
空配管による認定は受けていないからです。
その場合は、ダミーのケーブルを一本入れてあげましょう。
ケーブルを配管から少し出るくらいの長さに切断し、先端は絶縁テープ処理をしておけば問題ありません。
防火区画貫通処理改修時の注意点
電気工事改修工事の際は、既存の防火区画貫通処理を施してある箇所にケーブルを新規で通したり、ケーブルを撤去したりする作業があるかと思います。
ケーブルを撤去した部分は、穴が開いた状態になりますし、新規でケーブルを通す場合も穴をあけることになります。
その場合は、耐火パテで処理すればOKというわけにはいきません。
国土交通大臣認定の工法ですので、最終処理が耐火パテでしたら問題ありませんが、それ以外の場合はしっかりと工法通りに収めないといけません。
施してある区画処理材の型番を確認し、同じものを使用しましょう。
廃盤となってしまったいる場合は、一度撤去して新しい工法で施工するか、ケーブルを切断して残置ということも検討します。
このように、安直に判断せずに処理することが重要です。
さいごに
電気工事を施工する上で、防火区画貫通処理は有事の際に人命に直結する重要な部分です。
メーカーからは新工法が出る場合がありますので最新のものをチェックして施工しましょう。
また、施工方法は所轄行政機関により判断が異なる場合があるので、事前に確認してから後戻りのないように施工する必要があります。
隠蔽部のような後から見えない部分となることが多いですが、細部まで怠らず高品質な施工を実施していきましょう!
それではまた、ご安全に!