高圧受電の物件の敷地内の電柱の上にある大きな機器がPASです。
電力会社からの受電点になる他、全館停電に使用したり事故電流の遮断をする重要な電気設備です。
キュービクルからは離れた位置にありますが、高圧受変電設備を構成する一つの機器として抑えておきましょう。
今回は電柱に設置されている気になる機器「PAS」について詳しく解説していきたいと思います。
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PASは責任分界点
PASとは、「Pole Air Switch」の略で、高圧受電の需要家の責任分界点に設置される高圧電路の区分開閉器です。
責任分界点とは、電力会社と需要家の保安上の責任範囲を分けている点です。
つまり、PASの一次側は電力会社の管理区分、二次側は需要家の管理区分となります。
他の責任分界点に設置される開閉器としてUGSがありますが、UGSは地中から高圧ケーブルを引き込む場合に設置されます。
PASは架空引き込みの場合に設置され、引込第1号柱の柱上に設置されます。
PAS・・・架空引き込みの場合の責任分界点
UGS・・・地中引き込みの場合の責任分界点
需要家から見て、電力会社から電気を受け取る点(受電点)ともいえます。
構内の一番最初にある開閉器ですので、PASを開放することにより構内が全停電されますので停電作業に使用されたり、高圧ケーブルの事故電流の遮断など重要な役割を担います。
区分開閉器について、高圧受電設備規程には以下のように規程しています。
保安上の責任分界点には、区分開閉器を施設すること。ただし、一般送配電事業者が自家用引込線専用の分岐開閉器を施設する場合は、保安上の責任分界点に近接する箇所に区分開閉器を施設することができる。
[注]保安上の責任分界点は、一般送配電事業者との協議によって定められ、一般的には財産分界点と一致するが、施設形態によって異なる場合がある。
高圧受電設備規程1110-2区分開閉器の施設1項
単線結線図においても、PASは受電点になりますので一番上位にあることがわかります。
PASの役割① 停電作業
PASは、引込1号柱という需要家構内に受電するための電柱に設置されます。
需要家構内に設置されていますので、需要家の任意のタイミングで構内を停電することが可能です。
もちろん操作する際は、物件の電気主任技術者の管理下で行う必要がありますが、電力会社への要請は不要です。
昔のPASは電力会社の引込口に設置されていたので、工事による停電作業や保安検査の度に電力会社に開閉操作を依頼する必要がありました。
現在は電力会社と需要家がお互いに手間をかけずにすむので便利になりました。
停電の手順は操作する人によって違いますが、基本的に全館停電する場合はPASを開放することが基本です。
PASは受電点となり、高圧ケーブルを含めた需要家内の全ての電路が無電圧となりますので、PASの開放は保安上大変重要となります。
PASの開閉操作
引込1号柱にはPASから緑とオレンジの紐が引き伸ばされています。
PASには開閉操作用のレバーがあり、「入り」側にはオレンジの紐が、「切り」側には緑の紐がそれぞれ接続されているため、地上から紐を勢いよく引っ張ることによって開閉操作をします。
PASの役割② SOG機能付きDGRと組み合わせて事故電流を遮断する
PASは単体ですと単なる手動の開閉器ですが、SOG機能付きDGRと組み合わせて使用することによって、事故電流を遮断することができます。
一般的にPASとSOG付きDGRはセットで設置されます。
DGRは、地絡方向継電器で地絡保護の働きをし、SOGは過電流蓄勢トリップ形という意味で短絡電流に対処できます。
SOG機能付きDGRは、PASが設置される引込第1号柱の人が操作できる高さに設置されます。
SOG機能付きDGRによる地絡保護
保安上の責任分界点には、地絡遮断装置を施設すること。
高圧受電設備規程1110-4 地絡遮断装置の施設
高圧受電設備規程に責任分界点には地絡遮断装置を設置することを規定しています。
需要家構内で地絡事故が発生するとPAS内部のZCTで地絡電流を検出し、トリップの指令を信号線でDGRに送りPASを開放させ、配電系統への波及事故を防止します。
DGRは方向性をもっているため、ZCTの一次側の地絡は検出しないため構内の地絡事故の場合のみPASが開放します。
SOG機能付きDGRによる短絡保護
SOG機能は、短絡電流に対処することが可能です。
キュービクルに設置されるVCBにも短絡保護機能がありますが、PAS二次側〜VCBの一次側の間の高圧電路はPASの機能(SOG)を使用して対処することになります。
PAS自体はVCBと違い、短絡電流のような大電流を遮断する能力がありません。
そのため、電力会社変電所の保護装置が作動して一度配電線が停電したあとにPASを開放させます。
短絡電流発生時のPASの動きは以下のとおりです。
①短絡事故により短絡電流が流れるとPAS内部のCTにより、過電流を検出しPASの動作をロックする。(投入状態を維持する)
↓
②PASでは短絡電流を遮断できないので、電力会社変電所の遮断器が開放し配電線が停電する。
↓
③配電線の無電圧を検知して、DGR内部のコンデンサから充電された電荷がPASのトリップコイルに放電されてPASが遮断される。(PASの動作は1〜2秒)
↓
④この時、PASが遮断して短絡部分は切り離されているので、配電線で再閉路継電器が動作し、数十秒後に自動送電される。
短絡事故が起こってしまった場合は、配電線が停電しますので他の需要家も停電し影響することになりますが、SOG機能があることにより停電時間は数十秒ということで大きな波及事故にはならないのです。
電気関係報告規則第3条「事故報告」により「供給支障事故」が発生した場合は行政に届け出る必要がありますが、上記のように再閉路に成功した場合は届出の対象外となります。
「供給支障事故」とは、破損事故又は電気工作物の誤操作若しくは電気工作物を操作しないことにより電気の使用者に対し、電気の供給が停止し、又は電気の使用を緊急に制限することをいう。ただし、電路が自動的に再閉路されることにより電気の供給の停止が終了した場合を除く。
電気関係報告規則第一条7項
現在はVT・LA内蔵PASが主流
現在はVTとLAが内蔵されたPASが主流となっています。
LAは落雷による高電圧から機器等を保護するものですが、以前はキュービクルに単体で設置されることが多かったですが、PASに内蔵することでキュービクル内の設備スペースを省力化することができます。
VTについては、高圧を低圧に降圧する変圧器です。
VTが内蔵されることによって、PASからSOG付きDGRに使用する低圧電源を取得することができます。
以前はキュービクル配下の分電盤からGRに配線されていたので、停電の際は最後までGRに電源供給するためにGR電源ブレーカーをONにする必要がありました。
まとめ
まとめ
- PASは需要家電路の最初の開閉器で「受電点」であり責任分界点
- PASの役割は停電作業と事故電流からの保護
- PASは短絡保護機能がないため、短い間であるが送電線を停電させる
- 現在は、VT・LA内蔵PASが主流