電気設備設計において、幹線ケーブルの選定は大変重要な作業となります。
施工側にとっても設計図が適正かどうかのチェックに必要となります。
ブレーカー容量に合わせて、ケーブルサイズを選定するのですが、実は他にも検討事項がいくつかあります。
計算例も交えて説明していきますので是非ご覧ください。
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幹線設計の基本
幹線設計の重要性
後述しますが、ケーブルの「許容電流」と「電圧降下」を考慮したサイズ選定をする必要があります。
許容電流が低いとケーブルの発火の原因となり、電圧降下を考慮しないと電圧が低下して負荷機器への影響を与えることになります。
二つとも、基本的にケーブルサイズを太くすることで対策することができますので、しっかりと計算してサイズ選定する必要があります。
しかし、ケーブルサイズを太くすれば安全側になることは確かですが、太ければよいというわけではありません。
電気工事において、ケーブルのコストは大きなウェイトを占めます。
特に幹線ケーブルのような太物を現場単位で扱うと大きな予算ですよね。
とりあえずケーブルを太くするといった安易な設計ですと、オーバースペックとなり無駄なコストがかかってしまいます。
また、施工においてもケーブルが太いほど施工性が悪く人員を要しますので、マンパワー的なコストもかかります。
このように、コスト面と施工面から見ても適正なケーブルサイズを選定する必要があるのです。
幹線サイズ選定はブレーカー選定後に行う
まず、ブレーカーの役割ですが、ケーブルを保護するための機器です。
仮に、ケーブルに許容値以上の電流値が流れた際に、ケーブルを守るためにブレーカーがトリップし切り離します。
このことから、ブレーカーの定格電流値<ケーブルの許容電流値が基本となります。(動力の場合は例外があります)
そのため、分電盤の主幹ブレーカーの定格電流値をもとに、ケーブルサイズを検討していくことになります。
幹線サイズ検討の手順
幹線サイズを選定するにあたり、重要な要素がいくつかあります。
具体的には下の①〜④を順番に確認していき、すべての要素をクリアする必要があります。
順番に説明していきますね。
①「許容電流」の確認
ケーブルには許容電流といって、流せる電流値が決まっています。
許容電流を超える電流値が流れることによって、発熱に至り最悪の場合は発火、火災の原因となってしまいます。
許容電流はケーブルサイズや種類によって変動しますが、サイズが大きくなるにつれて許容電流も大きくなりますので、発熱や火災の被害を防ぐために適切なケーブルサイズを選定する必要があります。
上で説明しました、ブレーカーの定格電流値<ケーブルの許容電流値のルールの通り、最低でもブレーカーのAT値よりもケーブルの許容電流が大きくなるように選定します。
ケーブルの許容電流は下の表を参照してください。
線種→ サイズ[㎟]↓ |
CV-2C | CV-3C | CVD及び EM-CED |
CVT及び EM-CET |
2 | 28 | 23 | - | - |
3.5 | 39 | 33 | - | - |
5.5 | 52 | 44 | - | - |
8 | 65 | 54 | - | - |
14 | 91 | 76 | 91 | 86 |
22 | 120 | 100 | 120 | 110 |
38 | 170 | 140 | 165 | 155 |
60 | 225 | 190 | 225 | 210 |
100 | 310 | 260 | 310 | 290 |
150 | 400 | 340 | 400 | 380 |
200 | 485 | 410 | 490 | 465 |
250 | 560 | 470 | 565 | 535 |
325 | 660 | 555 | 670 | 635 |
基底温度 | 40℃ | |||
最高許容温度 | 90℃ |
備考(1)JCS 0168-2「33kV以下電力ケーブルの許容電流計算-第2部:低圧ゴム・プラスチックケーブルの許容電流」より抜粋
(2)中性線、接地線及び制御回路用の電線は本数に算入しない。
建築設備設計基準より
ここで、備考に記載の通り、中性線、接地線及び制御回路用の電線には負荷電流が流れないため、許容電流を選定する際は、単相3線式の3線を2線として算出します。
つまり、単相3線式の場合は、線は3本ありますが中性線は含まず2本として扱うので、CV-2CまたはCVDの許容電流を参照します。
・許容電流は表を参照する
・単相3線式はCV-2C、CVDを参照する
・三相3線式はCV-3C、CVTを参照する
【例】
100ATの主幹ブレーカー2次側の単相3線式幹線ケーブルの場合。
使用するケーブルはCVTであるが、単相3線式なのでCVDの欄を参照する。
22㎟は許容電流120Aであるので、100<120のため最低サイズでもCVT-22を選定する必要がある。
※ここで選定したケーブルサイズを単純に採用できません。
以下、順に説明します。
②「減少係数」または「低減率」を掛ける
ケーブルの敷設状況に応じて、許容電流に補正をかけてあげる必要があります。
ケーブルに電流が流れると熱を持ちますが、周囲に障害物があったり、ケーブルが密に詰められていると放熱できなくなるため、許容電流を低くみなければいけません。
具体的には、表で参照した許容電流に、配管に収める場合は「減少係数」をかけ、ケーブルラックに敷設する場合は「低減率」をかけます。
配管・・・減少係数をかける
ケーブルラック ・・・低減率をかける
結論としては、どちらも0.7をかけることになります。
以下に詳しく説明しますね。
【減少係数】
減少係数は、配管にケーブルを収める場合の補正率です。
収める本数により下の表の数字を許容電流にかけます。
減少係数をかけた許容電流値がブレーカーAT値よりも大きくなる必要があります。
同一管内の 電線数[本] | 3以下 | 4 | 5〜6 | 7〜15 | 16〜40 |
電流減少係数 | 0.7 | 0.63 | 0.56 | 0.49 | 0.43 |
尚、内線規程1340-2表においても同様の数値となります。
電線の本数ですので、例えばCV-2Cであれば2本、CVTであれば3本となります。
また、許容電流と同様中性線は本数に含みませんので単相3線式は2本とします。
【例】
単相3線式CVT22の許容電流は120Aであるが、配管にケーブルを収める場合
120×0.7=84
となり、許容電流は84Aとなる。
幹線ケーブルの場合は、何本も同じ配管に入れることは少ないと思いますので、ほとんどの場合減少係数0.7になりますので覚えておきましょう。
【低減率】
低減率は、ケーブルラックにケーブルを敷設する場合の補正率です。
敷設する条数により下表の数字を許容電流にかけます。
低減率をかけた許容電流値がブレーカーAT値よりも大きくなる必要があります。
中心 配列 関係 |
段m | 1 | ||||
列n | 1 | 2 | 3 | 6 | 7〜20 | |
S=D | 1.0 | 0.85 | 0.8 | 0.7 | 0.7 | |
S=2D | 1.0 | 0.95 | 0.95 | 0.9 | 0.8 | |
S=3D | 1.0 | 1.0 | 1.0 | 0.95 | - |
備考(1)JCS 0168-2「33kV以下電力ケーブルの許容電流計算-第2部:低圧ゴム・プラスチックケーブルの許容電流」及びJCS 0168-3「33kV以下電力ケーブルの許容電流計算-第3部:高圧架橋ポリエチレンケーブルの許容電流」より抜粋
(2)Sは、ケーブルの中心間隔を示す。
(3)Dは、ケーブルの仕上がり外径を示す。
建築設備設計基準より
段数のmは3段まで表がありますが、省略して1段のみとしています。
理由は、ケーブルラック段数の計画は1段を基本とするからです。
2段積み上げると低減率が最高で0.5、3段積み上げると低減率が最高で0.3となり、許容電流が半分以下になり正直ケーブルが使い物になりません。
そのため、ケーブルラックの段数は1段までとし、現実的な低減率で算出できるようにします。
また、ケーブルの中心間隔Sは基本的にS=Dとして計画します。
つまり、ケーブル同士の隙間はなく敷き詰められている状態です。
既設現場のケーブルラック上のケーブルを見てみるとわかりますが、綺麗に隙間なく敷き詰められているのがわかると思います。
そして、列nのケーブルの本数ですが6本以上で計画しましょう。
幹線ケーブルのCVT1本で3本、CVT2本で6本になってしまうからです。
ケーブルラックは多数のケーブルを敷設するために使用するものです。
また、現時点で仮に1本でも、将来的に増設される可能性がありますので多めに計画しましょう。
以上のことから、m=1、S=D、n=6以上の条件から表を参照すると、低減率は0.7となります。
減少係数も低減率もどちらも0.7として計算することが多いです。
【例】
単相3線式CVT22の許容電流は120Aであるが、ケーブルラックにケーブルを1段積みで敷設する場合
120×0.7=84
となり、許容電流は84Aとなる。
③「温度補正係数」を掛ける
減少係数または減少率をかけた後、さらにケーブル敷設場所の周囲温度によって「温度補正係数」をかけます。
周囲温度が高いほど、ケーブルの放熱が困難になるためです。
下の表からケーブルの周囲温度(基底温度)の補正係数を参照し、ケーブルの許容電流にかけます。
導体許容最高温度(℃) | 90 |
基準基底温度(℃)→ 基底温度(℃)↓ |
40 |
20 | 1.18 |
25 | 1.14 |
30 | 1.10 |
35 | 1.05 |
40 | 1.00 |
45 | 0.95 |
50 | 0.89 |
内線基底 資料1-3-3.10 基底温度による電流補正係数より抜粋
上の「許容電流」の確認で紹介した表は、導体許容最高温度90℃基準温度40℃であるため、その部分のみ抜粋してます。
例えば、サーバー室等の電算空調により25℃に温度管理されているような部屋であれば×1.14に補正可能です。
屋外に敷設するような場合は、周囲温度が40℃になる可能性があるため補正係数1.00で補正なしでよいでしょう。
【例】
単相3線式CVT22の許容電流は120Aであるが、サーバー室で25℃の温度管理をされている場所にのみ敷設するので、
120×1.14=136.8A
となり、許容電流は136.8Aとなる。
ここまで確認できれば、許容電流としては問題ないことが確認できます。
④「電圧降下」を算出し確認する
上記3項目にて許容電流が確認できたら、最後は電圧降下の確認です。
電圧降下とは「ドロップ」とも呼ばれ、電圧源から末端になるに従って電圧が下がる現象をいいます。
電圧降下は距離が長くなるほど導体抵抗により大きくなりますので、幹線ケーブルのように長い距離を敷設するケーブルは必ず検討する必要があります。
誤ったケーブルサイズを選定し、大きな電圧降下が発生すると負荷に十分な電圧をかけることができず、機器の寿命への影響や不具合発生の原因となりますので、しっかりと検討しましょう。
電圧降下は、導体が太くなるほど小さくなりますので、ケーブルサイズをアップすることで電圧降下対策となります。
上で確認して選定したケーブルサイズを元に電圧降下率を算出し、内線規程で定められてる許容値以内であることを確認します。
許容値からオーバーしていたらケーブルを1サイズアップして再計算といった手順となります。
電圧降下の計算式には、簡易式と基本式がありますが、幹線ケーブルの電圧降下計算は基本式を使用します。
下の記事に、計算方法や計算例を詳細に解説していますので参照ください。
幹線サイズ選定の計算例
それでは上記の検討要素を考慮して実際に計算してみましょう!
【幹線ケーブル敷設条件】
地下室内電気室のキュービクル低圧配電盤より、1階の電灯分電盤まで幹線ケーブルを敷設する。
電灯分電盤の主幹ブレーカーの容量は200Aとし、幹線ケーブルはケーブルラックにて敷設するものとする。
キュービクルから電灯分電までの距離は30mである。
【手順①】低減率をかけた値からケーブルサイズ選定
まず、ケーブルラックで敷設ということですので、低減率をかけた許容電流で200A以上を満たすケーブルサイズを選定します。
また、電灯分電盤ということですので、単相3線式であることがわかりますのでCVDの許容電流を参照します。
ケーブル許容電流値の表を参照しますと、CVD100㎟が310Aですので、
310×0.7=217A
217>200
ということでケーブルラック敷設の場合で200A以上の許容電流を満たすのは100㎟ということがわかりました。
【手順②】周囲温度による検討
次に、周囲温度による補正を検討していきます。
電気室及び電灯分電盤は室内ですので、空調機が停止した状態でも35℃程であると想定できます。
表より35℃の補正係数は1.05ですので、先ほど算出した許容電流値に掛け算すると、
217×1.05=227.85A
227.85>200
となり、若干許容電流が上がり、200A以上が満たされていることが確認できました。
【手順③】電圧降下の確認
※電圧降下は上で紹介した記事も参照しながら確認願います。
電圧降下の基本式は、e=KI(Rcosθ+Xsinθ)Lとなりますのでこちらに各数値を代入して計算していきます。
Kの係数は単相3線式ですので1となります。
Iの通電電流はブレーカーが200Aのため200を代入します。
RとXは下の添付を参照します。CVTは3架橋ポリエチレン絶縁ケーブル[CV,CE/F]の「2心及び3心mm2単心撚り合わせ形」の部分になります。
(一社)日本電線工業会技術資料103号A「低圧電線・ケーブルのインピーダンス」
表より、CVT100㎟のRは0.239、Xは0.0881ですね。
cosθは電灯盤ですので0.95となります。
sinθは、cosθの値から計算し、sinθ=\(\sqrt{1-0.95^2}\)≒0.312となります。
Lの電線のこう長は30mですので、kmに変換し0.03となります。
これらの値を全て代入しますと、
電圧降下e=1×200(0.239×0.95+0.0881×0.312)×0.03≒1.527Vとなります。
電圧降下がわかりましたので、電圧降下率を計算します。
1.527÷105×100≒1.45%
高圧受電で60m以下の幹線の電圧降下率許容値は3%以下ですので、条件を満たしています。
100㎟のサイズで電圧降下は問題ないことがわかりました。
よって、今回の条件による幹線ケーブルサイズは100㎟を選定します。
ここで電圧降下が許容値よりも大きい場合は、サイズをアップして再計算します。
まとめ
幹線ケーブルのサイズ選定手順
手順①配管やケーブルラック敷設がほとんどになるので0.7をかけた許容電流値にてケーブルを選定する
手順②周囲温度から補正をかけて、許容電流値を確認する。
手順③ケーブルこう長、ブレーカー容量から電圧降下率を計算し、許容値内であるか確認する。
手順④電圧降下率が許容値よりも大きい場合は、ケーブルサイズを1サイズアップして、電圧降下率を再計算する。