電気工事において、ケーブル敷設後の絶縁抵抗測定は必ず実施する事項です。
一般的に、電路に印加する電圧と判定基準は「電気設備に関する技術基準を定める省令」という法律によって定められ、それに準じて実施するかと思います。
しかし、ケーブルを新しく配線した場合、つまり新品のケーブルに対しては500Vを印加することが業界としても常識となっていますが、実はこの500Vというのは、法律や内線規程には記載がありません。
では、この500Vの根拠はどの規程なのでしょうか。
ここについて詳しく解説していきます。
電技や内線規程に500Vの記載はない
電技
法律である「電気設備に関する技術基準を定める省令」、通称「電技」には以下の記載があります。
(低圧の電路の絶縁性能)
第58条 電気使用場所における使用電圧が低圧の電路の電線相互間及び電路と大地との間の絶縁抵抗は、開閉器又は過電流遮断器で区切ることのできる電路ごとに、次の表の上欄に掲げる電路の使用電圧の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる値以上でなければならない。
電路の使用電圧の区分 絶縁抵抗値 300V以下 対地電圧(接地式電路においては電線と大地との間の電圧、非接地式電路においては電線間の電圧をいう。以下同じ。)が150V以下の場合 0.1MΩ その他の場合 0.2MΩ 300Vを超えるもの 0.4MΩ 引用:電気設備に関する技術基準を定める省令
ここでは、各使用電圧に対しての絶縁抵抗値を規定していますが、印加電圧は明確に記載されていません。
次に、電技を細かく解説した「電気設備技術基準の解釈」を見ていきます。
【低圧電路の絶縁性能】
引用:電気設備技術基準の解釈
第14条 二 絶縁抵抗測定が困難な場合においては、当該電路の使用電圧が加わった状態における漏えい電流が、1mA以下 であること。
この文から、各電路の漏えい電流は1mAまでは許容されることがわかります。
ここで、絶縁抵抗測定にて電圧を印加した際に、1mA以下である必要があり、この数字をもとに絶縁抵抗値の基準が定められているかと思います。
これはオームの法則で確認することができ、印加電圧をV、漏えい電流をA、絶縁抵抗値をRとして代入します。
例えば、300V以下、対地電圧150V以下の回路であれば、
V=IR
V=0.001A×100000Ω=100Vとなります。
1mAは0.001A、0.1MΩは100000Ωですね。
このことから、印加電圧は100Vと解釈できます。
他の回路にも同じように計算すると、200V、400Vとなり、基本的に印加電圧は使用電圧と同じことがわかります。
内線規程
内線規程においては、「1345-2低圧電路の絶縁性能」に規定しています。
こちらも、電技と電技解釈とほぼ同様のことが記載されています。
ここまでで、法律である電技と民間自主規格である内線規程では、明確に印加電圧を定めていませんが、基本的には使用電圧であることがわかります。
500Vの根拠規程
電気工事で一般的に施工の根拠とされる上記二つには、印加電圧について明確な記載がありませんでしたが、実は「JIS C 1302」と「公共建築工事標準仕様書」に500Vという記載があります。
JIS C 1302
定格測定電圧は、直流電圧で、25V、50V、100V、125V、250V、500V、又は1000Vのいずれかとする。
引用:JIS C 1302 2018
JIS C 1302は絶縁抵抗計の規格ですが、ここでは定格測定電圧の一つを500Vとしています。
そして、JIS C 1302 2018の解説には下の表があります。
JISは主務大臣が制定した規格ですが、JISの解説は規格の一部ではなく、JISの内容を補完し、理解を深めるために日本規格協会が発行しているものです。
定格測定電圧 使用例 25V/50V 電話回線用機器、電話回線電路の絶縁測定 100V/125V 100V 系の低電圧配電路および機器の維持・管理 制御機器の絶縁測定 250V 200V 系の低圧電路および機器の維持・管理 500V 600V 以下の低電圧配電路および機器の維持・管理 600V 以下の低電圧配電路の竣工時の検査 1000V 600V を超える回路および機器の絶縁測定 常時使用電圧の高い高電圧設備(例えば、高圧ケーブル、高電圧機器、 高電圧を用いる通信機器および電路)の絶縁測定 引用:JIS C 1302 2018 の解説
この表から100V〜250Vの測定電圧は「機器の維持・管理」という表現から、既設の電路に対するものと解釈できます。
そして、500Vの測定電圧は「竣工時の検査」という表現から、新品のケーブルに対するものと解釈できます。
つまり、維持管理に必要な年次点検等の保守業務の場合は、使用電圧に応じて100V〜250Vを印加し、ケーブルを新たに新設した際の竣工検査は使用電圧に関係なく500Vを印加します。
ちなみに上記表の電圧は、JIS規格で規程される定格測定電圧となり、一般的に販売される絶縁抵抗測定器もこのレンジ使用されます。
使用電圧に対して測定電圧の方が高くなっているのは、測定結果を安全側に見るためです。
公共建築工事標準仕様書(電気設備編)
2.18.2 施工の試験
(イ)低圧配線の電線相互間及び電線と大地間の絶縁抵抗値は、JIS C 1302「絶縁抵抗計」によるもので測定し、開閉器等で区切ることのできる電路ごとに5MΩ以上とする。ただし、機器が接続された状態では1MΩ以上とする。
なお、絶縁抵抗計の定格測定電圧は、表2.18.2による。表2.18.2 絶縁抵抗計の定格測定電圧
電路の使用電圧 定格測定電圧[V] 一般の場合 制御機器等が接続されている場合 100V級 500 125 200V級 250 400V級 500 引用:公共建築工事標準仕様書(電気工事編)
公共建築工事標準仕様書は役所等の公共工事を施工する際の仕様が定められています。
上記表によりますと、一般的には全ての回路に500Vを印加することになっています。
「制御機器等が接続されている場合」というのは、コンセントに機器が接続されている状態ですので、JISと同じく運用中と解釈できますので、既存の回路は使用電圧相当の電圧を印加することがわかります。
まとめ
まとめ
- 電技、内線規程には印加電圧に対する明確な規程はない
- JIS及び公共建築工事標準仕様書に500Vの記載がある
- 新設ケーブルには500Vを印加する
- 既存ケーブルには使用電圧に応じた電圧を印加する
以上のことから、普段ケーブルを新設した際に「絶縁抵抗測定は500V印加する」に対する根拠は、JIS規格と公共建築工事標準仕様書ということがわかりました。
新設ケーブルは機器が接続されていない新品のケーブルですので500Vの高い電圧をかけても問題ないですが、既存ケーブルは機器が接続されている可能性がありますので、500Vという高い電圧をかけると接続された機器が故障する可能性があります。
また、絶縁抵抗測定は電圧をかけますので一種の破壊試験になりますので、既存の劣化が進んだケーブルにあえて高電圧をかけて劣化を促進させることはおすすめできませんので、使用電圧に近い電圧で測定しましょう。
なんとなく慣習で測定を行うよりも、根拠を理解して実施することはとても重要です。
それではまた、ご安全に!