今回は、接地線(アース線)のサイズの選定方法について詳しく解説していきます。
接地線の選定といえば、A=0.052Inという有名な算定式があります。
基本的には、ブレーカー定格値にこの式を当てはまれば9割型問題ないのですが、この部分を深掘りしたお話と、ブレーカーサイズがない接地母線や接地極線についても解説していきますので是非ご覧ください。
接地工事の基礎については下記記事で解説しています。
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接地線サイズ選定の基礎知識
接地線を選定する際は、内線規程1-3-6に記載の「A=0.052In」から算出する方法が基本となります。
Aは銅線の断面積、Inはブレーカーの定格電流となりますので、ブレーカー定格電流値に0.052を掛けた数字の直近上位のケーブルサイズを選定すればいいわけです。
計算例
100Aの主幹ブレーカーが設置された分電盤に接続する接地線のサイズ選定
100×0.052=5.2
直近上位の8sqのケーブルを選定する
基本的には上記の方法で問題ないのですが、後述する内線規程の選定表から選定することをおすすめします。
理由は、内線規程は表から選定することと規定しているからです。
内線規程では、接地線太さについて下記のように規程しています。
内線規程1350-3.2.①
C種又はD種接地工事の場合は、1350-3表、A種接地工事の場合は、1350-4表によること。
内線規程1350-5.4
B種接地工事の接地線の太さは、1350-5表によること。
引用:内線規程
そして、表の備考欄にはこのように記載されています。
この表の算定の基礎については、資料1-3-6を参照のこと。
引用:内線規程1350-3表 備考4
この資料1-3-6に算定根拠である「A=0.052×In」が記載されています。
つまり、選定は表からを基本とし、「A=0.052In」は表の根拠でしかないということです。
ちょっと屁理屈くさいと感じるかもしれませんが、実際に内線規程の選定表の方が、算定式で求めたサイズより大きくなったり小さくなる場合がありますので注意が必要です。
例えば、C,D種の選定で、63Aのブレーカーは63×0.052=3.276ですので直近上位の3.5㎟となりますが、選定表ですと5.5㎟になります。
また、225Aのブレーカーの場合は、225×0.052=11.7ですので直近上位の14㎟となりますが、選定表ですと22㎟となります。
B種についても、同様です。
もちろん式から算出しても大きく問題になることはないかと思います。
表を都度確認するよりか式を一つ覚えた方が効率的ですよね。
ただ、検図する上司や細かいクライアントさんなどに指摘されることがあるかもしれませんので注意が必要です。
A種接地線のサイズ選定方法
A種接地線は、高圧電路に使用する接地ですね。
キュービクル内や電気室にある、高圧トランスやLBSなどの高圧機器に接地されます。
A種接地線のサイズは、内線規程により下表から選定します。
1350-4表 A種接地工事の接地線太さ(一部割愛)
A種接地工事の
接地線部分接地線の種類 接地線の太さ 銅 固定して使用する電気
機械器具に接地工事を
施す場合及び移動して
使用する電気機械器具
に接地工事を施す場合
に可とう性を必要とし
ない場合ー 2.6mm以上
(5.5㎟以上)移動して使用する電気
機械器具に接地工事を
施す場合において、可
とう性を必要とする部
分割愛します 8㎟以上 引用:内線規程
可とう性を必要とするとは、接地を接続した機器が移動するなどして、電線が動く可能性がある場合です。
ほとんどの場合、据え付けた機器は動くことがないので銅線の5.5㎟を選定すれば問題ありません。
高圧電路は、電圧が高いため、相対的に低圧に比べて電流値が低くなります。
そのため、細めの接地線で規程されています。
また、建築設備設計基準に記載の表は下記となります。
種別 接地線の太さ 接地母線 14㎟以上 接地分岐線 5.5㎟以上 高圧電動機 高圧負荷開閉器 高圧避雷器 14㎟以上 引用:建築設備設計基準
母線や避雷器については14㎟を選定しましょう。
機器に接続するA種接地は、5.5㎟を選定する
母線と避雷器は14㎟を選定する
B種接地線のサイズ選定方法
B種接地線は、トランスの低圧側に接続されますね。
内線規程により、下表から選定します。
接続するトランスの容量によりサイズが変わってきますね。
1350-5表 B種接地工事の接地線の太さ(一部割愛)
変圧器の一相分の容量 接地線の太さ 100V級 200V級 400V級
500V級銅 5kVAまで
10 〃
20 〃
40 〃
60 〃
75 〃
100 〃
175 〃10kVAまで
20 〃
40 〃
75 〃
125 〃
150 〃
200 〃
350 〃20kVAまで
40 〃
75 〃
150 〃
250 〃
300 〃
400 〃
700 〃2.6mm以上
3.2 〃
14㎟以上
22 〃
38 〃
60 〃
60 〃
100 〃[備考1]この表の算定根拠の基礎及び変圧器一相分の容量がこの表に定める容量を超える場合については、資料1-3-6を参照のこと。
[備考2]「変圧器の一相分の容量」とは、次の値をいう。
(1)三相変圧器の場合は、定格容量の1/3の容量をいう。
(2)単相変圧器同容量のΔ結線又はY結線の場合は、単相変圧器の一台分の定格容量をいう。
(3)単相変圧器V結線の場合
イ.同容量のV結線の場合は、単相変圧器の一台分の定格容量をいう。
ロ.異容量のV結線の場合は、大きい容量の単相変圧器の定格容量をいう。
[備考3]複数の変圧器で並行運転する場合の「変圧器の一相分の容量」は、各変圧器に対する[備考2]の容量の合計値とする。
引用:内線規程
表の見方ですが、単相変圧器、三相変圧器ともに200V級の列を参照します。
変圧器ニ次側が400Vの場合は、400V級の列を参照しましょう。
単相変圧器の場合は、表のうちそのまま定格容量からサイズ選定します。
三相変圧器の場合は、接地対象の変圧器定格容量÷3からサイズ選定します。
選定例
・単相100kVA変圧器の場合
→そのままの値なので表から、「200V級の125kVAまで」となるので38㎟を選定
・三相300kVA変圧器の場合
→容量÷3なので500÷3≒166
表より、「200V級の200kVAまで」となるので60㎟を選定
表に記載のものより変圧器容量が大きい場合は、A=0.052×Inの算定式を使います。
Inは変圧器の二次側の定格電流値になります。
変圧器の定格電流値は、仕様書等に記載がありますが計算でも算出できます。下記の式を使用します。
単相:定格電流値(A)=変圧器容量(kVA)×1000÷210(v)
三相:定格電流値(A)=変圧器容量(kVA)×1000÷√3÷210(V)
変圧器容量をVAに直して、電圧で割ってあげれば電流値を計算できます。
三相の場合は√3で割る必要がありますので注意です。
それでは実際に、表にない容量のサイズを計算により求めてみましょう。
計算例
表の容量より大きい単相変圧器500kVAの接地線サイズを算出してみます。
まず、定格電流を求めます。
500×1000÷210≒2381A
0.052Inの式に計算した電流値を代入します。
0.052×2381≒123.8
123.8の直近上位である150㎟のサイズを選定します。
・基本的には表より選定
・表の場合、単相はそのまま、三相は1/3の容量でみる
・表より容量が大きい場合は変圧器定格電流(全容量から)0.052Inにて算出
C,D種接地線のサイズ選定方法
C,D種、特にD種は、各分電盤や機器に接続するもので、接地線の中で最も使用する接地線です。
内線規程により、下表から選定します。
1350-6表 C種又はD種接地工事の接地線の太さ(一部割愛)
定格電流の容量 接地線の太さ 銅 20A以下
30A以下
60A以下
100A以下
150A以下
200A以下
400A以下
600A以下
800A以下
1000A以下
1200A以下1.6mm以上
1.6mm以上
2.0mm以上
2.6mm以上2㎟以上
2㎟以上
3.5㎟以上
5.5㎟以上
8㎟以上
14㎟以上
22㎟以上
38㎟以上
60㎟以上
60㎟以上
100㎟以上
上表の算定根拠は、A=0.052Inとなります。
C,D種接地線は表から選定する
接地母線のサイズ選定方法
接地母線は、アースの幹線とも呼ばれる部分です。
接地端子盤から出て、建物のメインの線路を配線し、分岐の接地線の元となる一番太い接地線です。
内線規程では、以下のように規定しています。
1350-14
1350-13([接地線及び接地極の共用の制限])に規定する場合を除き、一の接地極を共用する接地線の共通母線又は接地専用線の太さは、共用する接地極と接地を必要とする個々のものより選定した太さのもののうち最大の太さのものを使用することができる。
引用:内線規程
全ての電路の漏れ電流が流れる可能性のある部分ですので、太いのはイメージできますが、全ての定格電流を足して0.052をかけるわけではないです。
内線規程の通り、各接地線で選定したサイズのうち最大の太さのものを選定します。
例えば、分電盤Aは38㎟、分電盤Bは22㎟、分電盤Cは14㎟で接地線を選定した場合の母線は38㎟を選定します。
トランスに使用するB種接地線も同様の方法となります。
接地母線は、それぞれ選定した接地線のうち一番太い線を選定する
接地極線のサイズ選定方法
接地極線は地面に打ち込んだ接地極から、キュービクルや接地端子盤までの部分ですね。
接地極線は全ての漏れ電流が流れ着く部分になりますので、基本的に母線と同じ(各場所で選定したサイズのうち一番太いもの)サイズを選定します。
ただし、内線規程にて下記のように緩和されています。
1350-5.4
埋め込み又は打込み接地極によるB種接地工事で、この接地極が他の目的の接地又は埋設金属体と接続しない場合は、1350-5表のうち銅線14㎟、アルミ線22㎟を超える部分については、銅線14㎟、アルミ線22㎟のものを使用することができる。
1350-3
C種又はD種接地工事の接地極がその接地工事専用の接地極(打込み又は埋込み)であって、その接地極がB種接地工事と金属体などにより連絡しない場合は、1350-3表のうち、銅線14㎟、アルミ線22㎟を超える部分については、銅線14㎟、アルミ線22㎟のものを使用することができる。
引用:内線規程
このように、最大でも14㎟のサイズで選定します。
・接地極線は、基本的には母線と同じサイズ
・ただし、14㎟を超える場合は最大14㎟にできる
接地線を共用している場合のサイズは?
A種とD種は、共用されていることが多いですが、考え方は上記の選定方法と同じです。
選定対象の接地線が、どの種類の接地線として使用するかで決まります。
例えば、AD共用の接地線であっても、高圧トランスに使用するものはA種接地として使用しますので、A種の選定方法です。
低圧の分電盤は、D種として使用しますので、D種の選定方法です。
母線の場合は、分岐していない状態ですので、共用しているどちらにも使用する可能性がありますので、太い方のサイズを選定します。
AD共用の母線の場合は、D種のが太くなりますので、D種の選定方法です。
共用線はどの種類として使用するかで決める
まとめ
まとめ
- A=0.052が算定根拠となるが選定表から選定を推奨
- A種接地線は5㎟が基本
- B種接地線は変圧器容量が基準。表から選定
- C,D種接地線は表から選定
- 母線は選定した接地線のうち一番太い線を選定
- 接地極は母線と同じサイズだが、最大で14㎟
- 共用接地は、どの種類で使用するかで決まる
接地と一言にしても、意外といろいろな種類がありますよね。
接地線の基本算定式を抑えつつ、表やその他の規程を理解していれば接地選定に困りませんよ!
接地線は地絡電流を安全に逃がすための重要な線です。
是非適正な選定をして品質確保に努めましょう。
それではまた、ご安全に!