電気工事の現場で「あら配線」という言葉をよく聞くかと思います。
今回は、粗配線がどういったものなのかと施工方法について説明していきます。
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粗配線とは?
粗配線は、「先行配線」とも呼ばれ、名前からイメージできるとおり大雑把な配線です。
大雑把というと少し語弊がありますが、最終的な配線の目的地までは配線せずに、メインとなる経路のみ配線し、部屋の中の細かい配線は後回しにするということです。
粗配線を行う理由は、「先行配線」とも呼ばれるように、他の設備や建材が何もない状態のほうが施工性が高いからです。
配線する場所に、ダクトや配管がゴチャゴチャし、さらにLGSなどが立ち上がっていたりすると配線しづらいですよね。
住宅のような木造建築は、間仕切りの下地が出来上がってから配線に入ることが多いですが、このようにRC造などの大型建築では、ある程度先行して配線をしておきます。
配線は、基本的に分電盤が起点となり、照明やコンセントなどの器具が目的地となりますが、廊下などを通って各部屋に配線されます。
その配線のメインとなる経路はたくさんの配線が集中し、かつ長距離の配線となりますので、周りに何もない状態で一気に集中的に配線してしまうのが、粗配線ということですね。
逆に、部屋の中の配線は「間仕切り配線」といわれたりしますが、間仕切り配線は器具等までの最終的な配線となります。
間仕切り配線は、器具までピンポイントに配線する必要があり細々とした配線のため、天井下地材の全ネジや壁下地材をケーブルの支持として使用できますので、LGSが組み上がった後の方が施工上都合がよいです。
粗配線を施工するタイミング
粗配線の施工するタイミングですが、建物の躯体ができあがった後すぐとなります。
具体的には、施工するフロアのワンフロア上のスラブが打ち終わって、天井躯体が出来上がっている状態です。
躯体工事は、1フロアごとに順番に上がっていきますので、配線も追っかけで施工していくことになります。
躯体ができたばかりの現場は、本当に躯体のみのすっからかんの状態です。
壁も天井も設備も何もありませんので一番仕事がしやすいです。
また、他の職種の業者さんもあまりいないのでこのタイミングで配線しちゃいましょう。
それから、器具の位置を床に墨出しする「地墨出し」を配線の前に行っておくと、器具の位置がわかるのでより良いですが、粗配線ですので墨出し前でも問題ありません。
粗配線の施工方法①配線ルート構築
配線する高さとルートを決めよう
まず、配線ルートを決めましょう。
1フロアに分電盤が複数ある場合は、分電盤が負荷を受け持つ範囲を平面図に蛍光ペンで囲ってあげるとわかりやすいですよ。
メインルートは基本的に廊下などになるかと思いますが、分電盤を起点とし、分電盤が受け持つ範囲の一番遠い部屋を目指すルートがメインルートとなります。
メインのルートが決まりましたら、次は配線する高さを決めます。
現時点では、他の設備や壁がなにもない状態ですが、配線をしたあとに色々な設備が設置されることになります。
特に注意する必要があるのが、空調用のダクトです。
ダクトは大きくルート変更に融通がきかないので、ダクトのルートは配線しないように配慮する必要があります。
設備のダクト図面を入手し、ダクトのルートを避けてあげるか、ダクトよりも高い位置で計画しましょう。
あとからダクト屋さんに配線をどかしてくれと言われると大変です。
配線の支持材を取り付ける
配線ルートと高さが決定しましたら、ケーブルを支持する材料を取り付け、配線路を構築していきます。
支持材料はたくさんあるのですが、配線の量に応じて選定しましょう。
メインのルートになりますので、VVFケーブルを数十本支持できるものが好ましいです。
ケーブルラックを敷設してしまうのもありですが、施工が大掛かりになるので負荷配線は簡易的な支持材料を使用するのが一般的です。
支持材の取り付け方法は、スラブ打設前にインサートを取り付けてあればインサートに全ネジを取り付けます。
インサートがない場合はスラブにショートアンカーを打設して全ネジを吊るします。
デッキスラブでしたら、アンカーなしでも挟み込める部材もありますのでネグロスのカタログを眺めてみるといいですよ。
下に一般的な支持材料を紹介します。
【ネグロス電工 サキラック】
サキラックは最も一般的に使われています。
全ネジがまるめられていて、捕縛する部分にチューブが取り付けられているシンプルなものです。
上から順番にうまく縛っていけば十数本ものVVFケーブルを支持することが可能です。
【ネグロス ベビーラック】
サキラックよりもケーブル本数を多く乗せることができます。
真ん中を全ネジで吊るしますので、全ネジから左右に弱電と強電に分けるといった使い方もできます。
【ネグロス デッキ用吊り金具】
次に、支持材料ではないですが、デッキプレートにアンカーを打たなくても全ネジボルトを吊ることができる金具を紹介します。
フラットデッキや合成スラブデッキに対応していて、デッキの溝や山に挟み込むような形で、全ネジをねじ込むだけのワンタッチですので、かなり施工が簡単です。
ケーブルラックなどの重量がある部材を吊るすのは厳しいですので、上で紹介している簡易的なケーブル支持材料吊り込み用に使いましょう。
デッキには、Fデッキ、Cデッキ、Eデッキなどの多数種類があり、リブのサイズによっても金具が異なりますので、デッキの種類を確認してから選定しましょう。
ケーブル支持点間について
ケーブルの支持点間、つまり支持材の吊りピッチは、内線規程3165-1表より1m以下となっていますので、1m以内となるように吊り込みましょう。
施設の区分 | 支持転換の距離(m) |
造営材の側面または下面において 水平方向に施設するもの | 1以下 |
接触防護措置を施していないもの | 1以下 |
その他の場所 | 2以下 |
ケーブルの相互並びにケーブルと ボックス及び器具との接続箇所 | 接続箇所から、0.3以下 |
粗配線の施工方法②配線をする
支持材を吊り込んだら配線作業になります。
配線に使用する道具
配線を始める前に、段取りが必要ですね。
粗配線は、長距離になることが多く、複数回路のケーブルを配線しますので、500mドラム巻きのVVFケーブルを使用すると、コスト・施工ともに効率がよくなります。
100m巻きのものですとすぐになくなるので段取り替えに時間がかかってしうからです。
500m巻きの場合、ケーブルドラムとなりますので、ドラムジャッキを使用します。
遠いところから配線がセオリー
配線は、遠い場所から配線していくのがセオリーです。
理由は、一番遠いところから配線することにより、段取り→配線→捕縛までの一連の作業の流れとして、どれだけの時間が必要かを把握することができるからです。
また、ケーブルはまとめて捕縛することになりますが、遠くから配線していくことにより、奥からしっかりと捕縛を決めていくことができます。
施工図から部屋単位で考える
施工図を読み、照明、コンセントなどの必要となる電源回路を全て、部屋ごとに洗い出します。
配線する回路番号を順番に書き出してもいいです。
例えば、一番遠い部屋の2部屋の一つが下の図のような施工図だとすると、部屋に必要な回路は照明の101とコンセントの102ですね。
配線が完了した回路は、施工図の回路番号を蛍光ペンなどでチェックしておきましょう。
廊下の配線は最後に
ここは好みになりますが、廊下の照明や、誘導灯非常灯など、一つの回路で広い範囲に配線が必要な回路は最後に配線します。
ある程度、配線に目処がついたところで、範囲が広い長めの配線は最後に施工したほうがやりやすいかと思います。
ケーブルは長さをみて丸めて吊るす
配線したケーブルの長さは、盤側は最低でも盤が据え付けられる位置の一番下までみます。
単独で付く機器については、機器の位置より1mくらい長めにみておきましょう。
コンセントや照明など分岐のジョイントやスイッチ結線するものについては、部屋内の点検口まで長さをみておきます。
部屋内の細かい配線は、間仕切り配線で行いますので、とりあえずジョイントできる長さが部屋にある状態で問題ないです。
長さをみたら、ケーブルに回路番号が書かれていることを確認し、まるめます。
スラブに近い上のほうの邪魔にならないような位置で吊るしておきましょう。
何本もまとめて丸めると重くなりますので、電線などを使いしっかりと縛ります。
粗配線の施工法③捕縛
捕縛方法
ケーブルを縛ることを捕縛といいますが、捕縛方法は基本的にインシュロック(結束バンド)を使用します。
結束バンドで支持金物にケーブルを複数本まとめて縛るだけです。
ケーブルのよれなどは、2重天井ですのである程度まとまって綺麗になっていれば問題ないと思います。
あとは支持材と支持材の間の部分がばらけますので、1・2箇所縛ってあげるとよいでしょう。
捕縛する本数に注意しよう
まとめて捕縛する本数ですが、多くても7本くらいにします。
大量のケーブルをまとめて縛ると、ケーブルに電流が流れた際に発生する熱が放出できなくなり、最悪の場合発火の原因となります。
ケーブルドラムなども同じですが、過去に事例があったということで、各サブコンや電気工事会社ではまとめて捕縛できる本数を「6〜7本」と決めているところが多いです。
粗配線の注意点
粗配線は、何もない状態から先行して配線していくことになります。
先ほどダクトの位置に注意と説明しましたが、間仕切り壁にも注意が必要です。
天井裏は基本的に間仕切りが立ち上がることは少ないですが、防火区画の壁は天井スラブまで間仕切りが立ち上がります。
先行配線をして、壁の中途半端な位置でケーブルが貫通していると、ボード屋さんがどうやって処理をしていいかわかりません。
また、防火区画は区画貫通処理をする必要があるので電線管を壁に通すのが好ましいです。
そのため、区画壁をどうしても先行して配線したい場合は、ボード屋さんの番頭さんに協議が必要です。
スラブの一番上の部分に電線管を先に通して、そこにケーブルを通せばボード屋さんも貼りやすいですよね。
その工法で事前にボード屋さんに話をしておき了承していただければ、気持ちよく施工できるかと思います。
さいごに
粗配線と聞くと、雑な配線に聞こえますがそうではないんですね。
末端までは配線しない、ざっくりとした配線となりますが、言い換えればメイン経路を決める重要な配線です。
今回紹介した施工方法は一般的な方法ですが、支持間隔と捕縛本数さえ守れば手順は自由ですので、施工回数を積んでやりやすい方法をマスターしてみてくださいね。
それではまた、ご安全に!