安全衛生規則に接近限界距離というものが定められています。
これは人体の感電災害防止によるものです。
大雑把にいうと接近限界距離はその距離以内に近づくと感電する距離です。
対して離隔距離という言葉があります。
離隔距離は離さなければいけない距離です。
今回は接近限界距離とは何か、離隔距離との違いについて解説します。
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接近限界距離とは
接近限界距離という単語は安全衛生規則に記載されています。
安全衛生規則では下記のように特別高圧の活線作業について定めています。
(特別高圧活線作業)
第三百四十四条 事業者は、特別高圧の充電電路又はその支持がいしの点検、修理、清掃等の電気工事の作業を行なう場合において、当該作業に従事する労働者について感電の危険が生ずるおそれのあるときは、次の各号のいずれかに該当する措置を講じなければならない。
一 労働者に活線作業用器具を使用させること。この場合には、身体等について、次の表の上欄に掲げる充電電路の使用電圧に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる充電電路に対する接近限界距離を保たせなければならない。
充電電路の使用電圧(単位 キロボルト) 充電電路に対する接近限界距離(単位 センチメートル) 22以下 20 22を超え 33以下 30 33を超え 66以下 50 66を超え 77以下 60 77を超え 110以下 90 110を超え154以下 120 154を超え 187以下 140 187を超え 220以下 160 220を超える場合 200 二 労働者に活線作業用装置を使用させること。この場合には、労働者が現に取り扱つている充電電路若しくはその支持がいしと電位を異にする物に身体等が接触し、又は接近することによる感電の危険を生じさせてはならない。
2 労働者は、前項の作業において、活線作業用器具又は活線作業用装置の使用を事業者から命じられたときは、これを使用しなければならない。
引用:安全衛生規則
低圧電路の場合は、充電部分に触れなければ感電することはありません。
活線のケーブルやコンセント、照明器具に近づいても感電することはありませんね。
高圧以上の電路の場合は、接近限界距離以内に近づくと感電する恐れがあります。
どういうことかというと、空気はゴムやプラスチックと同じ絶縁物であり電気を通しませんが、特別高圧などの高電圧になると電気を流そうとする力が強くなり空気中に電気が流れます。
空気中に電気が流れるということは、絶縁物である空気が絶縁破壊している状況です。
これを閃酪(せんらく)またはフラッシオーバーといいます。
ブレーカーを切る瞬間やドライヤーの電源を入れたままコンセントを抜いた瞬間にバチっと電気が見えることはないでしょうか。
これは一瞬空気中を電気が流れている状態です。
このように高圧以上の電路は空気が絶縁破壊してフラッシオーバーを起こし、感電が発生します。
そのため、安全衛生規則では上表のように電路から最低でもこの距離は離れなさいというように具体的に定めています。
高圧以上の電路では触れるだけではなく近づいてもならないことがわかりますね。
また、人体だけでなく工具を含めた距離で考えなければなりません。
近接限界距離は感電するリスクがある距離ということです。
近接限界距離の対象は
次に安全衛生規則では高圧活線近接作業について次のように規定しています。
(高圧活線近接作業)
第三百四十二条 事業者は、電路又はその支持物の敷設、点検、修理、塗装等の電気工事の作業を行なう場合において、当該作業に従事する労働者が高圧の充電電路に接触し、又は当該充電電路に対して頭上距離が三十センチメートル以内又は躯側距離若しくは足下距離が六十センチメートル以内に接近することにより感電の危険が生ずるおそれのあるときは、当該充電電路に絶縁用防具を装着しなければならない。ただし、当該作業に従事する労働者に絶縁用保護具を着用させて作業を行なう場合において、当該絶縁用保護具を着用する身体の部分以外の部分が当該充電電路に接触し、又は接近することにより感電の危険が生ずるおそれのないときは、この限りでない。
2 労働者は、前項の作業において、絶縁用防具の装着又は絶縁用保護具の着用を事業者から命じられたときは、これを装着し、又は着用しなければならない。
引用:安全衛生規則
この条文から、高圧作業においては近接する場合は絶縁用保護具を着用するように義務付けていますが、特に近接限界距離については規定していません。
また、近接限界距離は特別高圧活線作業の項目で規定していることから、対象範囲は特別高圧以上であることが考えられます。
離隔距離
離隔距離とは安全衛生関係の法令で出てくるものではなく、電気設備技術基準や火災予防条例で記載される単語です。
主に安全の観点から規定される一定の距離を意味します。
離隔距離はケーブル相互間、機器相互間、ケーブルや機器と建物間の離さなければいけない距離として、電気設備技術基準で度々記載されています。
離隔をとる理由としては様々ですが、安全を担保する場合、ケーブル同士の電圧の混触等による弊害の防止、避難経路の確保などがあります。
近接限界距離は主に人体を対象にしていますが、離隔距離は設置するケーブルや機器を対象にしていると捉えることができます。
まとめ
接近限界距離・・・感電の危険性がある限界の距離(道具を含めた人体が対象)
離隔距離・・・様々な理由で(特に安全面)規定される離さなければいけない距離(ケーブル、機器等が対象)