プルボックスは、電線を接続するためのジャンクションとしても用いられますが、通線を容易にする目的でも配管の途中に設けられるボックスです。
プルボックス内では、ケーブルが屈曲することになりますが、内線規程ではケーブルを施設する場合の屈曲半径や絶縁電線を収容する鋼製電線管の屈曲半径等がそれぞれ定められています。
建築設備設計基準では、この内線規程の規程をもとにプルボックスの寸法算出方法を規定しています。
プルボックスのサイズは、接続する電線管が収まるかはもちろん重要ですが、ケーブルの屈曲半径を考慮する必要があるのです。
今回は、建築設備設計基準をもとにプルボックスのサイズ算出方法を解説していきます。
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プルボックスの設置箇所
建築設備設計基準では、原則として以下の場所に設置することとしています。
プルボックスの設置箇所
①電線管の一区画が30mを超える部分
②電線管の垂直部分が6mを超える部分
③電線管を分岐、接続、曲げる等でプルボックスが必要な箇所
配管が長距離となる場合は、通線が困難となりますのでプルボックスを設け中継点とすることができます。
配管に曲がりが多くなる場合も同様に途中でプルボックスを設けます。
内線規程では、270°(3直角)まではOKですが、3回曲がりがあるとかなり通線がきつくなりますので、できれば2回の曲がりでプルボックスを設けられるのが理想です。
また、配管の中での電線接続は禁止ですので、ジョイントのためのジャンクションボックスとしても使用されます。
プルボックスのサイズ選定方法
プルボックスのサイズは接続する配管の本数とサイズで決定します。
プルボックス寸法の算出法
プルボックスの寸法算出法
寸法 | 絶縁電線を収納するプルボックスの寸法 | ケーブルを収納するプルボックスの寸法 | |
直線配管の 場合 |
取付け面(A)[mm] | A=Σ(P+30)+(30×2) | A=Σ(P+30)+(30×2) |
長さ(B)[mm] | B=Pm×6 | B=Pm×8 | |
直角配管の 場合 |
取付け面 (A)及び(B)[mm] |
(A)及び(B)=Σ(P+30)+30+3Pm ただし、A及びB≧200 |
(A)及び(B)=Σ(P+30)+30+3Pm |
A:プルボックスの幅[mm]
B:プルボックスの長さ[mm]
P:電線管の呼称
Pm:最大電線管の呼称
引用:建築設備設計基準
プルボックスに接続する本数とサイズから、表の数式に代入して寸法を求めます。
表の見方ですが、絶縁電線とケーブルを収容する場合にわかれています。
絶縁電線は、導体に絶縁体が施されたもので、ケーブルは更に外装が施されたものになります。
次に、直線配管と直角配管の場合にわかれていますが、プルボックスに対して配管が直線か直角かによる違いになります。
続いて、Aはプルボックスの幅、Bは長さになりますが、直角配管の場合はAとBそれぞれの計算式がありますが、プルボックスの形は基本的に既製品は正方形です。
つまり、製作品以外は幅と長さは同じ製品となりますので、AとBの計算結果のうち大きい方のサイズ以上を選定します。
次に、Pは電線管のサイズです。
例えばE25であれば25、E51であれば51をそのまま代入します。
Pmは接続する配管のうち一番大きいサイズの数値を代入します。
次に、計算式内のΣの記号は、「繰り返し計算する」という意味です。
接続する配管全てに対して、(P +30)を繰り返し計算して合計します。
例えば、E25とE51の2本の配管を接続する場合は、Σ(P+30)は、(25+30)+(51+30)となります。
プルボックス高さの算出法
プルボックスの高さ選定表
電線管の呼称 | 1段配列の高さ[mm] | 2段配列の高さ[mm] | 3段配列の高さ[mm] | |
厚鋼電線管 | ねじなし電線管 | |||
G16 | E19 | 100(80)* | 200 | 300 |
G22 | E25 | 100(80)* | 200 | 300 |
G28 | E31 | 100 | 200 | 300 |
G36 | E39 | 200 | 300 | 400 |
G42 | E51 | 200 | 300 | 400 |
G54 | E63 | 200 | 400 | 500 |
G70 | E75 | 200 | 400 | 500 |
G82 | - | 300 | 400 | 600 |
注 *( )内の数値は、埋込形のボックスの高さとする。
引用:建築設備設計基準
プルボックスの高さは、接続する配管のサイズと段数により表から選定します。
現場の状況や、通線するケーブルの数によっては段数が多くなるかと思いますので、それに応じて高さも高くなります。
プルボックスサイズ算出例
上記の選定方法をもとに、例としてプルボックスのサイズを算出してみます。
【電線管敷設条件】
プルボックスに接続する配管は、E25×2、E31×1の合計3本とし、プルボックスに対して直線接続とする。
また、3本の配管は横並び1段とする。
幅A={(25+30)+(25+30)+(31+30)}+(30×2)=231
長さB=31×6=186
高さは選定表より、E31の1段なので100
よって、(幅231×長さ186×高さ100)以上のプルボックスを選定する。
最小のサイズは(300×300×100)のサイズとなる。
プルボックスの材質選定方法
プルボックスは、使用環境に適した形式、材料及び仕上げを有するものということで、建築設備設計基準に以下の表でまとめられています。
プルボックスの材料及び仕上げ
施設場所 | 鋼板製 | ステンレス鋼板製 (SUS) |
合成樹脂製 (V) |
|||
錆止め (C) |
塗装 | 溶融亜鉛メッキ (Z35) |
||||
一般屋内 | 隠ぺい場所 | ○ | ー | ー | ー | ○ |
露出場所 | ー | ○ | ー | ー | ー | |
湿気・水気の多い室内 | ー | △*1 | ○ | ○ | ○ | |
一般屋外 | ー | △*1 | ○*2 | ○*2 | △*3 | |
特殊な屋外 | ー | ー | ○*2 | ○*2 | △*3 |
備考
(1)一般屋内とは、湿気・水気の多い室内以外の事務室、電気室、機械室等をいう。
(2)湿気・水気の多い室内とは、水蒸気の充満する屋内、常時水が露出又は結露する屋内、常時湿気のある屋内及び水滴の飛散するおそれのある室内をいう。
(3)一般屋外とは、特殊な屋外以外の屋外をいう。
(4)特殊な屋外とは、海岸地帯の屋外及び腐食性ガスの発生する屋外等をいう。
注
*1 施設場所に応じた塗装を行う。
*2 施設場所に応じた材料、仕上げを行う。
*3 施設場所の周囲温度を考慮する。
引用:建築設備設計基準
一応、建築設備設計基準では上記となりますが、基本的には以下で説明する「樹脂製」「鉄製錆止め塗装」「溶融亜鉛メッキ仕上げ」「ステンレス」の4種類から選定します。
樹脂製
樹脂製のメリットは、錆びたり腐食することがない点です。
海岸沿いの地域の塩害にも強い材質です。
そのため、屋内ではもちろん雨にあたる屋外でも使用することができます。
また、他の鉄製プルボックスに比べ安価のためコストに優しい点もメリットです。
デメリットは、樹脂製のプルボックスに合わせて使用されるVE管(塩ビ管)にも共通することですが、衝撃に弱い点です。
車両が走行する駐車場、フォークリフトが走行する倉庫、重機や移動式機械が動いている工場、その他においても人や物が接触する可能性がある場所は樹脂製を避け、鉄製のプルボックスを選定します。
樹脂製
・安価
・錆び、腐食がないので屋内・屋外問わず使用できる。
・人やものが衝突する可能性がある場所は設置を避ける。
鉄製錆止め塗装
鉄製錆止め塗装は、塗装がされていますが非防水仕様となります。
そのため、雨があたるような屋外や、湿気がある屋内には使用できません。
基本的には、屋内で使用する金属製のプルボックスで、薄鋼電線管(E管)とセットで使用されます。
鉄製錆止め塗装
・非防水仕様
・屋内使用の鉄製
・E管とセットで使用
鉄製溶融亜鉛メッキ仕上げ(ドブ漬け)
溶融亜鉛メッキ(通称ドブ)は、鉄の表面に亜鉛を施したものです。
くすんだシルバーのような色が特徴です。
鉄製ですが、錆びや腐食に強い防水仕様のため一般的には屋外で使用されます。
亜鉛が施された部分は表面のみなので、穴あけした断面はローバル等で錆び防止処置をする必要があります。
屋外で使用される厚鋼電線管(G管)と組み合わせて使用されます。
溶融亜鉛メッキ仕上げ
・屋外で使用する鉄製
・断面は錆止め処置が必要
・G管と組み合わせて使用
ステンレス(SUS)
ステンレス製(通称サス)は、ドブと同じく防水仕様です。
錆びに強いため主に屋外で使用されます。
ドブのようなくすみがなく、鏡面のような仕上がりとなりますので意匠性にこだわった場所に使用されることもあります。
デメリットは、価格が高く加工がし難いという点です。
ステンレスは、「熱伝導が悪い」「加工硬化性が強い」などの特性からキリや工具の刃への負担が大きくなります。
他の鉄製プルボックスと比べると加工に時間がかかる上に、工具にも気を使います。
また、プルボックスの蓋のビスを噛み合わない状態で無理に締めると焼き付けを起こし使い物にならなくなったり、異種金属との接触による電食を起こして錆びるなど意外とデメリットが多いです。
腐食性ガスにも弱いので、化学工場やプールなどでの使用は避けましょう。
そのため、施工性の悪さから意匠性を考慮しない限りはドブを使うことが多いです。
ステンレス
・屋外で使用する鉄製
・意匠性が良い
・施工性が悪い
国土交通省仕様について
国や自治体が施主となる、「公共工事」で使用するプルボックスは国土交通省仕様のものを使用する必要があります。
国土交通省が定めた技術基準に適合する仕様です。
具体的には、国土交通省監修の「公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)」に記載されています。
プルボックスに関する仕様が詳細に書かれていますが、分かりやすい特徴は接地端子が設けられていることです。
(オ) 標準図第2編「電力設備工事」の接地端子座による接地端子を設ける。
引用:公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)
さいごに
意外とプルボックスのサイズ選定は迷う部分ですよね。
内線規程には、具体的な算定方法が記載されていませんので、規程されている曲げ半径から選定することになります。
今回紹介した方法を使用すれば、エクセル等で計算書を作ってしまえば一瞬で選定できますし、客先への選定根拠としてもしっかり説明できますね。
それではまた、ご安全に!