今回は短絡接地器具、別名アースフックについて解説していきます。
「どこにつけるの?」「手順は?」など安全に使用できる方法の説明と共に特殊な状況における設置箇所も説明していきます。
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短絡設置器具とは
労働安全衛生規則の確認
まず、労働安全規則には停電作業について次のように定められています。
第三節 停電作業
(停電作業を行なう場合の措置)
第三百三十九条 事業者は、電路を開路して、当該電路又はその支持物の敷設、点検、修理、塗装等の電 気工事の作業を行なうときは、当該電路を開路した後に、当該電路について、次に定める措置を講じな ければならない。当該電路に近接する電路若しくはその支持物の敷設、点検、修理、塗装等の電気工事 の作業又は当該電路に近接する工作物(電路の支持物を除く。以下この章において同じ。)の建設、解 体、点検、修理、塗装等の作業を行なう場合も同様とする。
一 開路に用いた開閉器に、作業中、施錠し、若しくは通電禁止に関する所要事項を表示し、又は監視 人を置くこと。
二 開路した電路が電力ケーブル、電力コンデンサー等を有する電路で、残留電荷による危険を生ずる おそれのあるものについては、安全な方法により当該残留電荷を確実に放電させること。
三 開路した電路が高圧又は特別高圧であつたものについては、検電器具により停電を確認し、かつ、 誤通電、他の電路との混触又は他の電路からの誘導による感電の危険を防止するため、短絡接地器具 を用いて確実に短絡接地すること。 2 事業者は、前項の作業中又は作業を終了した場合において、開路した電路に通電しようとするときは、 あらかじめ、当該作業に従事する労働者について感電の危険が生ずるおそれのないこと及び短絡接地器 具を取りはずしたことを確認した後でなければ、行なつてはならない。
引用:労働安全衛生規則
停電時に短絡接地器具を用いて短絡することを明確に定めています。
短絡接地器具の構造
短絡接地器具の構造は簡単にいうと大型のワニ口クリップが4つ連結したものです。
金属部(ワニ口クリップ)、それらをわたらせるケーブル、接地に接続する側の金属部、3つの金属部と接地側金属部をつなぐケーブルでできています。
金属部の持ち手の部分は絶縁性のグリップが施され三相短絡用のクリップは赤、接地側のクリップは黒または緑となっていることが多いです。
上記以外にも作業状況に応じた金属部の形をしたものが販売されていますが、上記のものが最も一般的に普及しあらゆる場所で対応できますのでおすすめです。
対応電圧がありますので高圧用(6.6KV)か特高用(6.6〜22KV)で選定します。
6.6KVキュービクルや高圧受電設備でしたら長谷川電機工業のH型がおすすめです。
最も一般的に普及しているキュービクル万能用です。
収納袋も付属しています。
短絡接地器具の用途
特別高圧・高圧の電路の停電作業を行う際、作業者の意図しない通電または他電路混触による事故や感電を防止する目的のために使用されます。
大元の電路開放箇所には安全対策による監視人の配置や投入禁止札の貼り付けなどの誤送電防止措置が講じられますが、100%防げるとは言い切れません。
そのため短絡接地器具の取り付けは万が一に備えた二重の安全対策と言えます。
三つのクリップで三相を一括短絡して接続し、残りのクリップを接地極に接続します。
誤って電路に送電されたしまった場合、短絡接地器具で三相短絡していますので過電流保護装置が働きメイン開閉器が遮断されるパターンが多いです。
仮に過電流保護装置が機能しなくても三相一括で接地していますので事故電流を大地に逃がして作業者の安全を確保することができます。
また、停電直後は電路に残留電荷が残っていますので短絡接地器具の金属部を電路に接触され放電するという用途にも使用されます。
短絡接地器具の使用方法・手順
基本的な手順
すでに停電されていることが前提とします。
停電と復電の手順はこちらを参照ください。↓
①安全保護具を着用する
作業に入る前に安全対策として、ヘルメット・電気用ゴム手袋を着用します。
電気用ゴム手袋は低圧用のものではなく必ず高圧用のものを着用してください。
②検電器を使用して無電圧を確認する
ディスコン(断路器)の各相に検電器を順番に当て無電圧を確認します。
R相検電ヨシ!などと呼称しながらだと尚良いかと思います。
少し恥ずかしいですが、低圧のコンセントをいじるのと訳が違いますので手順を間違えないためにも呼称は重要になります。
検電器も高圧のものを必ず使用してください。
高圧検電器についてはこちらを参照ください。↓
③接地端子にアース用のクリップを取り付ける
仮に短絡接地器具に電圧が流れるとしたら高圧以上になりますので、接地側のアースの種類は必ずA種です。
短絡接地器具の取り付けは安全を考慮してアース側からが原則となります。
これは万が一残留電荷が電路に存在していた場合、先に接地しておくことによって放電できるためです。
④短絡用側のクリップで放電する
短絡側のクリップの3つの内どれでも大丈夫ですので持って、断路器の各相に接触させて残留電荷を放電させます。
電路が全部繋がっている場合は断路器だけで大丈夫ですが、すでにLBSやVCBで回路が切り離している場合は切り離した回路ごとに放電しなければいけません。
とくにコンデンサは残留電荷が蓄積しやすいので忘れずに実施しなければいけません。
こちらも「R相放電ヨシ!」などと呼称しながら実施しましょう。
⑤短絡用クリップを取り付ける
放電が完了しましたら、断路器(ディスコン)の一次側の各相に短絡用クリップを取り付けます。
二次側ですと誤送電された場合に防止できませんので必ず一次側に取り付けます。
三相のクリップは何相がどこなどと決まりはありませんが、取り外れないようにしっかり取り付けます。
こちらも「R相取り付けヨシ!」などと呼称しながら実施しましょう。
⑥接地中の札を取り付ける
他の作業者や第三者に対する注意喚起と短絡設置器具を取り付け安全対策を実施しているということを明示します。
⑦短絡接地器具の取り外し
停電作業が終了し復電に移る前に短絡接地器具を取り外します。
当然ですがそのまま電源を投入すると短絡事故になりますので、電源を投入する前に短絡接地器具を取り外します。
実際に短絡接地器具取り忘れによる事故が少なからず起こっています。
安全対策措置が逆に事故の原因とならぬよう最後まで気を抜かず細心の注意を払う必要があります。
また、取り外しの順序ですが短絡用クリップから先に外し最後に接地側クリップです。
部分停電(サブ変電所)の場合の取り付け位置
改修工事などでは工事範囲外の場所はそのまま運用するといった場合に部分停電をすることがあります。
部分停電の場合何が問題になるかといいますと、短絡接地器具を取り付ける断路器の一次側が活線ということです。
可能であれば断路器の二次側に取り付けたいところですが、取り付け部分と活線部分があまりにも近すぎて大変危険です。
ちょっと手を滑らすと活線部にクリップが接触して短絡事故になりかねません。
高圧の活線作業に慣れている、又は高圧活線部の養生を安全にできる方であれば問題ないのですがなかなかそうはいきません。
そのような場合は断路器直下のVCBの電線接続端子部分に取り付けることをおすすめします。
VCBであれば活線部分からも離れた位置になりますので危険性は軽減されます。
または受変電設備内を確認して状況に合わせて危険がないと判断できる部分に取り付けます。
できる限りリスク低減をすることも高圧設備の作業をする上で重要なことです。
まとめ
まとめ
・短絡接地器具は労働安全衛生規則に規定されている。
・停電時の誤送電を想定して2重の安全措置。
・取り付けの順番は接地側から短絡側。取り外しはその逆。
・接地側はA種接地に接続
・取り付け位置は基本的には断路器の一次側
・残留電荷の放電にも使える
・部分停電で危険な場合はVCBなど安全な場所を検討。
手順が多いので、慣れている場合も停電の作業手順書に盛り込み、手順の厳守と指差呼称しながら作業すれば忘れは防止できると思います。
ちょっとしたことが重大事故に繋がりますので気を引き締めて取り付けましょう。
高圧の誤送電から人体を守る、短絡接地器具でした。
それではまた、ご安全に!
今回紹介した道具↓