自動力率調整器は、「自動力率調整装置」、「APFC」とも呼ばれ、その名の通り自動で力率を制御できる装置です。
力率改善は進相コンデンサを設置すればいいんじゃないの?
確かに進相コンデンサ設置のみの設備も多くありますが、負荷の使用状況や容量に応じて自動制御が必要になります。
自動力率調整器は、自動力率調整制御を行う一部の機器として捉えましょう。
そのため、この記事では自動力率調整のシステムから、使う機器やメリットについて詳細に解説していきたいと思います。
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自動力率調整制御とは
概要
自動力率調整器は「自動力率調整制御」というシステムに使用される継電器ですので、まずは「自動力率調整制御」のシステムについて説明したいと思います。
自動力率調整制御とは、高圧回路に接続された高圧進相コンデンサを使用負荷に合わせて、制御により自動で開閉できるシステムです。
まず、簡単に力率についてですが、交流回路においてモーターなどの誘導性の負荷が使用されると、電流と電圧の位相がずれることにより無効電力が発生します。
無効電力は負荷で消費されない電力となりますので、効率が悪くなるのです。
力率は、出力された電力(皮相電力)と負荷で消費された電力の割合となります。
そのため、誘導性の負荷が増え、無効電力が増えるにつれて力率も悪くなり、結果効率も悪くなるのです。
この力率悪化を改善するために、誘導性と逆の性質である容量性をもつ高圧進相コンデンサを回路に接続します。
力率は、1を基準とし、誘導性の場合は1より小さな値となり「遅れ」、容量性が多い場合は1より大きな値となり「進み」と呼びます。
高圧進相コンデンサを接続することにより、進みの状態となり1に近づけることが可能です。
しかし、当然ですが負荷は変動します。
夜間や休日等の動力機器が稼働していない時間帯は、負荷が減り力率は1に近づきますが、この状態でコンデンサがつながれていると「進みすぎ」の状態となり不具合へと繋がります。
自動力率調整制御を導入していれば、負荷が少ない時間帯はコンデンサを切り離し、負荷が多い時間帯はコンデンサを接続するといったフレキシブルな動きを自動で行うことができるのです。
高圧進相コンデンサについては下の記事を参照ください。
高圧受電設備規程の確認
高圧受電設備規程には次のように規程しています。
1150-9 ①
進相コンデンサの定格設備容量が300kVarを超過した場合には2群以上に分割し、かつ、負荷の変動に応じて接続する進相コンデンサの定格設備容量を変化できるように施設すること。ただし、負荷の性質上接続する進相コンデンサの定格設備容量を保守上変化させる必要がない場合は、この限りでない。
引用:高圧受電設備規程
明確に設置を義務付けられているわけではありませんが、最近の新設キュービクルには設置されている印象です。
特にコンデンサ設備容量が大きい物件や、時間帯によって動力負荷の変動が大きい物件には設置が推奨されます。
自動力率調整制御のメリット
電気料金が力率割引により低減できる
基本料金には力率85%を基準にして、これを上回ると電気料金が割引され、下回ると電気料金が割り増しされる力率料金制度があります。
自動力率調整器を使用して常に力率100%に近づける制御をすれば、電気料金を削減できます。
電力損失を低減し、省エネを図る
力率が改善すると無効電力が小さくなり、変圧器・配電線などの電力損失が低減され省エネになります。
無効電力を含めた電力を「皮相電力」といい単位はkVAで、実際に負荷で消費されている電力は「有効電力」といい単位はWです。
我々の住宅でも該当しますが、電力会社からの電気料金請求はW(有効電力)で請求されます。
つまり、電力会社は無効電力分を需要家に請求できませんので、この効果は電力会社側に寄与するものといえます。
しかし、近年は社会的に省エネが叫ばれていますので、我々需要家側も無効電力を発生させないという意識を持つ必要があるかと思います。
軽負荷時の力率進みすぎを防止
進相コンデンサによる力率改善は、電気料金に対し付与してとても良いことなのですが、負荷が少ない状態で進相コンデンサを繋ぎっぱなしの状態にすると力率が「進みすぎる」状態となります。
力率が進みすぎることによって、「フェランチ効果」という送電端より受電端のほうが電圧が高くなるという現象が起きます。
その結果、電圧上昇により機器の寿命に影響を与えてしまいます。
自動力率調整器により、自動的に必要以上の進相コンデンサを遮断して力率の進みすぎを防止することにより、電圧上昇を防ぐことができます。
メンテナンス要員の削減
自動力率制御を一度設定しておけば、自動的に進相コンデンサの投入・遮断を行ってくれるため、手動操作が不要になります。
力率調整に必要な人員を削減できる他、手動よりも正確に力率調整を行うことができます。
自動力率調整制御に必要な機器
自動力率調整制御を行うには、以下の機器が設置されます。
自動力率調整器(APFC)
自動力率調整器(以下APFC)は、力率の状態を検出して真空電磁接触器に信号を送る継電器です。
力率状態から、VMCの投入台数を制御します。
真空電磁接触器(VMC)
真空電磁接触器(以下、VMC)は、進相コンデンサ回路を投入・遮断をするための開閉器で、コンデンサの上位に設置されます。
一般的な自動力率調整制御を行っていない設備ですと、コンデンサ回路の開閉器はLBSが設置されているかと思います。
自動力率調整をする場合、自動で開閉を繰り返しますので開閉寿命が重要になります。
LBSの場合は開閉寿命が早い上に、自動的に投入できませんので自動力率調整をする場合、コンデンサ回路に使用できません。
対して、VMCは開閉寿命がLBSの数十倍あり、APFCからの信号を受けて自動的に開閉できます。
また、コンデンサ回路開放後の、開閉器の極間の回復電圧は、残留電荷により電源電圧の2倍になると言われています。
そのため、極間の絶縁回復に優れていて、再点弧の心配のないVMCを採用します。
放電コイル
放電コイルは、進相コンデンサの上位に設置し、進相コンデンサの残留電荷を放電する機器です。
自動力率調整をする場合、負荷の変動によっては短時間の間にVMCが何度も開閉する可能性があります。
コンデンサ開放後、コンデンサの残留電荷が十分に放電されないまま再投入された場合、高い過渡電圧が発生して大変危険です。
放電コイルは、開放後5秒以内に放電をほぼ完了させることができます。
高圧受電設備規程には次のように規程しています。
1150-9-4
進相コンデンサ回路には、コンデンサ容量に適合する放電コイル、その他開路後の残留電荷を放電させる適当な装置を設けること。ただし、コンデンサが変圧器一次側に直接接続されている場合又は放電抵抗内蔵のコンデンサを用いる場合は、この限りでない。
[注1]放電コイルは、開路後5秒以内にコンデンサの電圧を50V以下にする能力があり、また、放電抵抗内蔵形コンデンサの放電抵抗の場合は、開路後5分以内に50V以下にする能力を有すること。
[注2]コンデンサが変圧器の一次側に直接接続されている場合とは、単相変圧器、三相変圧器及び三相コンデンサを一括して限流ヒューズで保護するように施設されている場合をいう。
引用:高圧受電設備規程
制御方式の種類
APFCによるコンデンサ開閉制御は、以下の3種類の制御方式を設定により選択できます。
サイクリック制御
VMCの開閉頻度を均一化し、コンデンサの稼働状況を平均させる制御方式です。
例えば、3台のコンデンサが設置してあり、制御によりVMCが2台投入⇆3台投入と繰り返す動きをしたとします。
この時、開放されるVMCは1台となりますが、毎回同じ機器が開閉しますと1台のVMCのみ開閉寿命が縮まってしまいます。
また、コンデンサにおいても同じコンデンサばかり停止してしまうと、通電していない状態で長く放置されることになるので絶縁管理上好ましくありません。
このような状態を、VMCの開閉を均一的に制御することによって防止できる点が、サイクリック制御のメリットとなります。
日毎に違うVMCが開閉されますので、全て同容量のコンデンサが設置されている場合に適しています。
【サイクリック制御】
・VMCの開閉が均一化
・コンデンサの稼働時間も均一化
・機器の更新が同じタイミングとなり保守が容易
・同容量コンデンサ場合に適している
優先順位制御
優先順位制御は、各コンデンサに投入・遮断の優先順位を設けた制御方式です。
この制御は、大容量のコンデンサをメインで使用し、力率調整は小容量のコンデンサを開閉することで調整している、「異容量のコンデンサ群」の制御に適しています。
つまり、小容量のコンデンサを優先的に開閉するように命令する制御ですね。
優先順位制御の場合、小容量のコンデンサ回路のVMCの開閉回数が多くなりますので、保守点検者は開閉されているVMCと開閉回数を把握し、こまめに点検する必要があります。
【優先順位制御】
・小容量のコンデンサ回路を優先して開閉
・異容量のコンデンサ群に適している
・機器の稼働が均一でないため、こまめなメンテが必要
最適制御
最適制御は、目標力率以上に常時収めるために、一番最適な容量のコンデンサを選んで投入する制御です。
この制御の場合、動力負荷の変動が大きく、大容量のコンデンサと小容量のコンデンサが混在する異容量コンデンサ群で、かつ、全てのコンデンサを開閉する可能性のある設備に適しています。
この制御の場合、きめ細かい力率調整が可能ですが、優先順位制御よりもさらにVMCの開閉状況が読めず不均一になるため、こまめなメンテナンスが必要となります。
【最適制御】
・一番最適なコンデンサを選択投入
・きめ細かい制御可能
・VMC開閉が不均一のため、細かいメンテが必要
まとめ
まとめ
- 自動力率調整とは、コンデンサ回路を自動開閉して力率を調整する
- メリットは、省エネ、力率の進みすぎ、メンテの省力化等たくさんある
- 自動力率調整のシステムには「自動力率調整器」、「真空電磁接触器」、「放電コイル」が必要
- 自動力率調整の制御方法は、3種類あり負荷変動状況により決められる