ケーブルラックのサイズ選定に迷ったことはないですか?
選定表があればいいのですが、ケーブルラックは配管と違い、ケーブルを何本も乗せる用途で使用しますので、ケーブルの組み合わせが多すぎてなかなか選定表の作成は現実的ではありません。
実際には、ケーブルのサイズを調べ、ケーブルラックの幅に収まればいいわけですが、「単純に計算したら実際には収まらなかった」とか、「将来性を考慮して予備スペースを作りたい」など意外と色々な要素が絡み合ってきます。
また、図面にケーブルラックのサイズを記載した際に、一緒に算定書があれば、より根拠があって納得できますよね。
今回は、ケーブルラックのサイズを選定するための算出方法を、計算例を交えて詳しく解説していきたいと思います。
また、材質についても数種類ありますのでポイントを説明していきます。
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ケーブルラック寸法の算定
ケーブルラックサイズの算定方法は、内線規程等では記載がないですが、「建築設備設計基準」という国土交通省監修による書籍に記載があります。
通称「茶本」と呼ばれる、設備設計のバイブルとなる書籍です。
また、「建築設備設計基準」の計算方法を基に、算定表や計算手引きを記載している「建築設備設計計算書作成の手引き」という書籍がありますので、お客様へ算定書を提出する場合や、自分でエクセル自動計算書を作成する場合は、フォーマットとして参考にしてみてはいかがでしょうか。
ケーブルラック寸法算定式の確認
ケーブルラックのサイズは、下の算定式によって算出することができます。
W≧1.2{Σ(D+10)+60}÷m
W:ケーブルラックの幅(内面寸法)[mm]
D:ケーブルの仕上がり外径
m:ケーブルの段数
ここでケーブルの段数のmですが、基本的にケーブルラックは1段積みとして設計します。
理由は、2段積みをするとケーブルの許容電流が著しく下がるためです。
そのため、m=1となるので下の式となりますね。
W≧1.2{Σ(D+10)+60}
Σ(D+10) はケーブル間の裕度をとる
まずはじめに、ケーブルラックに乗せるケーブルの仕上がり外径を調べます。
メーカーのカタログ等に載ってますので、調べてみてくださいね。
参考にフジクラのCV、CVTのカタログを載せておきます。
https://www.fujikura-dia.co.jp/pdf/catalog/catalog-6600V_CV-CVT.pdf
外径がわかったら、式のDに代入します。
ここで、Σの記号がありますが、Σはそれぞれに同じ計算をするという意味です。
例えばA、B、Cというケーブルを3本ケーブルラックに乗せる場合を考えると、それぞれのケーブル外径に10を足します。
A +10、B +10、C +10といった感じですね。
それから、10を足したそれぞれのケーブル外径を合計します。
この10を足す作業は、単純に仕上がり外径を合計するだけですと、その通りいかない場合があるので裕度をとっています。
商品によって、カタログ値と若干誤差がある場合や、ケーブルの拠れ方によっても仕上がり外径は変動します。
+60 はケーブルとケーブルラック間に裕度をとる
それぞれのケーブル外径に10を足して合計した値に60を足します。
この作業は、ケーブルとケーブルラックとの間に裕度をとるためです。
基本的に、ケーブルラックにはケーブルを敷き詰めて敷設しますが、あまりにもぴったりのサイズですと放熱性もよくないですよね。
×1.2 は将来用のスペースを見込む
上記で計算した値に、1.2をかけてあげます。
これで、ケーブルラックを選定するための計算は以上となります。
この作業は、将来用のスペースを見込むためです。
追加工事や、改修工事によって既存のケーブルラックを使うことってよくありますよね。
算出した数値からケーブルラックサイズを選定する
上記で計算した数値の直近上位のケーブルラックサイズを選定します。
例えば算出値が150であれば200のケーブルラックを選定します。
ここで注意していただきたいのが、ケーブルラックの内面寸法と算出値を比較することです。
ケーブルラックの公称サイズよりも実際の内面寸法は少し幅が狭いので注意です。
ケーブルラックの内面寸法は以下の表となります。
形式↓サイズ→ | 200 | 300 | 400 | 500 | 600 | 800 | 1000 | 1200 |
はしご形 | 180 | 280 | 380 | 480 | 580 | 780 | 980 | 1180 |
トレー形 | 190 | 290 | 390 | 490 | 590 | ー | ー | ー |
一般的には、はしご形を使用することが多いかと思いますが、使用する種類に応じて確認してみてくださいね。
公称サイズよりもトレー形は10小さく、はしご形は20小さくなっています。
計算例
それでは、実際に計算例をもとに計算してみます。
敷設するケーブルは下記条件で算出します。
例
敷設するケーブル
・CVTケーブル100SQ×1
・CVTケーブル150SQ×1
・IV線14SQ×2
メーカーカタログより、各ケーブルの仕上がり外径は下記となります。
CVT100SQ→38mm
CVT150SQ→44mm
IV線14SQ→4.8mm
調べた仕上がり外径を算定式に代入します。
1.2×{(38+10)+(44+10)+(4.8+10)+(4.8+10)+60}≒229
算定結果は229mmという結果となりましたので、内面寸法の表から選定していきます。
表より、280≧229となりますので、300サイズのケーブルラックを選定することになります。
ケーブルラック材質の選定方法
ケーブルラックの材質については、敷設環境に応じて決める必要があります。
ケーブルラックの材質の選定について「建築設備設計基準」では下記のように記載があります。
材料及び仕上げの記号→ 施設場所↓ |
ZM | Z35又はZA | AL | ZT(水平部のみ) |
一般屋内 | ○ | ○ | ||
湿気・水気の多い屋内、一般屋外 | ○ | ○ |
備考 (1)一般屋内とは、湿気・水気の多い屋内以外の事務室、電気室、機械室等をいう。
(2)湿気・水気の多い屋内とは、水蒸気の充満する屋内、常時水が漏出又は結露する屋内、常時湿気のある屋内及び水滴の悲惨するおそれのある屋内をいう。
(3)一般屋外とは、海岸地帯の屋外、腐食性ガスの発生する屋外等の特殊な屋外以外をいう。
「建築設備設計基準」より
施設場所について
施設場所については、表から「一般屋内」と「湿気・水気の多い屋内、一般屋外」の二通りに分類できます。
要は、防水が必要であるか、必要でないかです。
「一般屋内」は防水が不要な場所となり、「湿気・水気の多い屋内」は防水が必要な場所となります。
一般的な屋内は、湿気もなく水がかかる心配もないので防水不要ですね。
そして、屋外はもちろん防水が必要となります。
屋内についても、プールや浴場などは防水が必要な場所となります。
「一般屋内」→防水が不要な場所
「湿気・水気の多い屋内、一般」→防水が必要な場所
材料及び仕上げの記号について
結論としては、一般屋内はZM(メラニン樹脂焼付塗装)、屋外や湿気のある場所はZA(スーパーダイマ)が基本となります。
「建築設備設計基準」に記載のある5つの記号は、「公共建築設備工事標準図(電気設備工事編)」による規格となります。
これは、公共工事を施工する場合に参考にする書籍となりますが、内線規程等に規程のないケーブルラックについては、こちらの「公共建築設備工事標準図(電気設備工事編)」を参考に施工や設計をすることになります。
材料及び仕上げの記号について下記の記載があります。
材料及び仕上げの記号
記号 | 材料及び仕上げ |
ZM | 亜鉛の両面付着量100g/㎡以上の溶融亜鉛めっき鋼板に塗装を施したはしご形のもの |
Z35 | 鋼板又は鋼材にJIS H 8641「溶融亜鉛めっき」に規定するHDZ35以上の溶融亜鉛めっきを施したはしご形のもの |
ZA | 溶融亜鉛・アルミニウム系合金めっき鋼板を用いたはしご形のもので、JIS H 8641「溶融亜鉛めっき」 に規定するHDZ35と同等の耐食性能を有するもの |
AL | アルミニウム合金に陽極酸化被覆を施したはしご形のもの |
ZT | 亜鉛の両面付着量100g/㎡以上の溶融亜鉛めっき鋼板に塗装を施したトレー形のもの |
公共建築設備工事標準図(電気設備工事編)より
この記号は、設計図に書き記すものとなりますが、材質の呼称としては一般的には馴染みがないと思いますので、イメージしやすいように説明していきます。
ZM(溶融亜鉛めっき鋼板)
仕様としては、「亜鉛の両面付着量100g/㎡以上の溶融亜鉛めっき鋼板に塗装を施したはしご形のもの」ということですが、ZMは基本的に一般屋内に使用されるものという認識で問題ありません。
ネグロスの商品ですと、メラニン樹脂焼付塗装として販売されていますね。
ネグロスの型番は、頭に何もつかないものです。(SR20等)
よく室内の天井裏などに、ベージュ色(クリーム色)のケーブルラックがあるかと思います。
標準仕様の一般品として、屋内で使用される材質となり、屋外や湿気・水気のある場所では発錆を起こす可能性があるため使用できません。
ZM
・一般屋内専用
・メラニン樹脂焼付塗装
・標準仕様
Z35(溶融亜鉛めっき仕上げ)
仕様としては、「鋼板又は鋼材にJIS H 8641「溶融亜鉛めっき」に規定するHDZ35以上の溶融亜鉛めっきを施したはしご形のもの」となります。
いわゆる「ドブ付け」ですね。
現場でも「ドブ」という名前が飛び交っていますよね。
見た目は普通の鉄のような感じですが、少しくすんだような色が特徴です。
ドブ付けのケーブルラックは、屋外や水気のある場所に使用することができますが、後述するスーパーダイマの登場であまり使用されることがなくなりました。
ネグロスの商品ですと、Zシリーズ(Z-SR20など)が適合します。
Z35
・ドブ付け
・屋外や水気のある場所に使用
・Zシリーズ
ZA
仕様としては、「溶融亜鉛・アルミニウム系合金めっき鋼板を用いたはしご形のもので、JIS H 8641「溶融亜鉛めっき」に規定するHDZ35と同等の耐食性能を有するもの」となります。
いわゆる「スーパーダイマやエコガル」と呼ばれるものですね。
ステンレス製のものもZAに分類されます。
基本的には、屋外や湿気・水気のある場所にはスーパーダイマを選定すれば問題ありません。
スーパーダイマは非常に優れた材質で、耐候性だけではなく、塩害地域にも使用できます。
また、安価でステンレスよりも加工しやすいということで、屋外使用はスーパーダイマが主流となっています。
ドブと比較しても、加工時に塗装をしているということで、切断面が発錆しないのも特徴です。
このように、以前はドブやステンレスが屋外では主流でしたが、スーパーダイマの登場により、ドブやステンレスはほとんど使用されなくなりました。
ZAは、ネグロスの製品ですと、SDシリーズ(スーパーダイマ:SD-SR20など)とSシリーズ(ステンレス:S-SR20など)が適合します。
ZA
・スーパーダイマ・エコガル・ステンレス
・屋外や水気のある場所に使用できる
・現在はスーパーダイマが主流
・SDシリーズ、Sシリーズ
AL
仕様としては、「アルミニウム合金に陽極酸化被覆を施したはしご形のもの」となります。
ALは、アルミニウム素材のもので、軽量であることが最大の特徴となります。
軽量であるため、運搬や施工がとても楽で、工事における疲労を軽減することができます。
デメリットとしては、耐荷重に強くないので電力幹線などのケーブルには使用できず、弱電等に限定されます。
施工性は良いですが、実際にはあまり現場では使われない印象です。
強電と弱電を共用する部分が多かったり、発注業務が煩雑になるので、ZMやZAに統一されることが多いです。
ネグロスの商品ですと、ARシリーズ(5AR20等)が適合します。
AL
・アルミニウム素材
・屋外や水気のある場所に使用できる
・軽量だが耐荷重は強くない
・ARシリーズ
ZT
仕様としては、「亜鉛の両面付着量100g/㎡以上の溶融亜鉛めっき鋼板に塗装を施したトレー形のもの」ですね。
ZMのトレー形バージョンといったところです。
トレー形の溶融亜鉛めっき鋼板の上に塗装をしてあるもので、一般屋内に使用されます。
ネグロスの商品ですと、WRシリーズ(WR20、WR30など)が適合します。
トレー形は、ケーブルが直接見えないため、ケーブルラックが露出する場所で意匠にこだわった場所に使用されます。
こちらも、あまり現場ではみかけない印象です。
ZT
・トレー形
・一般屋内専用
・意匠にこだわった場所に使用
・WRシリーズ
材質選定のまとめ
色々な種類の材質を紹介しましたが、まとめますと基本的に一般屋内は「ZM(一般仕様)」、屋外や水気のある場所は「ZA(スーパーダイマ)」を選定しましょう。
一般屋内はZMで問題ないですよね。
屋外や水気のある場所は、色々な仕様がありますが、ステンレスは加工が大変ですので、鏡面などの意匠性を考慮した場所以外まず使われません。
ドブも機能的にスーパーダイマが上位となりますので使われなくなりました。
アルミニウムやトレー形も場所が限られ、ほとんど使われることがないので上記のような選定で問題ありません。
一般屋内→ZM(一般仕様)
屋外や水気のある場所→ZA(スーパーダイマ)
まとめ
まとめ
- サイズ選定はW≧1.2{Σ(D+10)+60}
- 一般屋内はZM(一般仕様)
- 屋外、水気のある場所はスーパーダイマ
長くなりましたが、シンプルにまとめると上記になります。
ケーブルラック選定に役立てていただければと思います。
それではまた、ご安全に!