高圧設備

高圧電路における絶縁抵抗測定値の判定基準値、許容値について解説

絶縁抵抗測定は、電路の絶縁性能を測定するもので、電路の品質管理として重要な試験です。

低圧部分においては、ケーブルを新設したり、離線した際は当然のように実施する試験ですよね。

高圧に関しては、電気設備技術基準や内線規程に明確な基準の記載がなく、測定する人によっても様々な印象です。

実は、高圧絶縁測定の判定基準は「高圧受電設備規程」に記載があります。

判定基準は、根拠規程を元に明確にし、品質統一をする必要があるかと思いますので、今回は高圧電路における絶縁抵抗測定に関する基準などを詳しく解説していきます。

高圧の絶縁性能の判定は絶縁耐力試験が基本

高圧の絶縁性能の判定については、電気設備技術基準の解釈第15条に規程されており、一般に高圧電路の絶縁性能の確認は絶縁耐力試験によることとなっています。

【高圧又は特別高圧の電路の絶縁性能】(省令第5条第2項)

第15条 高圧又は特別高圧の電路(第13条各号に掲げる部分、次条に規程するもの及び直流電車線を除く。)は、次の各号のいずれかに適合する絶縁性能を有すること。

一 15-1表に規定する試験電圧を電路と大地との間(多心ケーブルにあっては、心線相互間及び心線と大地との間)に連続して10分間加えた時、これに耐える性能を有すること。

二 電線にケーブルを使用する交流の電路においては、15-1表に規定する試験電圧の2倍の直流電圧を電路と大地との間(多心ケーブルにあっては、心線相互間及び心線と大地との間)に連続して10分間加えたとき、これに耐える性能を有すること。

電気設備技術基準より引用

このように高圧電路の絶縁性能は、絶縁耐力試験を実施しなさいとの規定しており、絶縁抵抗測定に関しては特に記載していません。

しかし、次に説明しますが、既設の電路については一般的に絶縁抵抗測定を実施することになります。

高圧の絶縁抵抗測定を実施する場面、理由とは

絶縁性能判定は、一般に「絶縁抵抗測定」と「絶縁耐力試験」の二つの方法が行われています。

絶縁抵抗測定は、絶縁抵抗計(メガー)いよる絶縁抵抗測定ですが、この方法は初期の絶縁レベルでの試験が必ずしも実施できるとはいえず、絶縁レベルがどの程度あるかは絶縁耐力試験によって行うことが必要です。

よって電気設備技術基準の解釈のとおり、高圧電路の絶縁性能の判定は絶縁体力試験が基本となりますが、絶縁抵抗測定を実施する場面とはどういったところになるのでしょう。

結論として、高圧電路に絶縁抵抗測定を実施する場面としては、既設の電路の絶縁性能を確認する場合です。

絶縁耐力試験の場合は、10350Vという一般的な高圧電路の使用電圧6600Vをはるかに上回る高電圧を10分間印加します。

これは、安全側を見たもので、使用電圧よりも高い電圧をケーブルにかけることで、これに耐えうるかを確認します。

絶縁耐力試験は、破壊試験となりますので、基本的には新設の機器やケーブルに実施します。

多少でも経年劣化している電路に、あえて高電圧を印加することで、機器やケーブルを痛めてしまうことを懸念し、既設の電路には絶縁耐力試験ではなく絶縁抵抗測定を実施することが業界通念では実情としてあります。

新設の電路・・・絶縁耐力試験
既設の電路・・・絶縁抵抗試験

高圧電路に絶縁抵抗測定を実施する具体例を次にあげます。

●運用中におけるキュービクルなどの年次点検(定期点検)の際

キュービクル(受変電設備)は、保守管理として1年に1度停電し、点検するよう法で定められています。

年次点検は法定点検ともいいます。

年次点検は、既設の設備となりますので一般的に絶縁耐力試験は実施せず、絶縁抵抗測定を行います。

●高圧受電設備の機器やケーブルを更新した際

キュービクルの経年劣化によるリプレースとして機器更新する際も絶縁抵抗測定を実施します。

キュービクルを丸ごと更新する場合もありますが、キュービクル内の機器を部分的に更新する場合があります。

その場合は、新設機器と既設機器が混在することになりますね。

新設機器は絶縁耐力試験を実施する必要がありますので、既設機器から切り離して試験をします。

機器更新が完了し、新設機器の絶縁耐力試験も完了後は復電となりますが、低圧電路と同じくなにも試験せずに復電するわけにはいきません。

機器やケーブルの絶縁状態はもちろんですが、機器の接続間違いや、工具の置き忘れによる接地との接触も考えられます。

一度工事などで手を加えた電路には、高圧電路においても必ず絶縁抵抗測定を実施します。

手を加える前と同等とする必要がありますので、比較するために停電前にも絶縁抵抗測定を実施しましょう。

高圧の絶縁抵抗測定値の判定基準は?

高圧受電設備規定の資料1-3-2に、下記のように高圧ケーブルの絶縁抵抗値による判定の目安が記載されています。

各試験電圧による判定目安の表が記載されていますが、個人的には5000Vを推奨します。

3表 高圧ケーブルの絶縁抵抗値による判定目安(1000〜2000Vで測定)

ケーブル 要注意
絶縁体 CV・CVT 2000MΩ以上
BN 100MΩ以上
シース CV・CVT 1MΩ以上
BN 0.5MΩ以上

4表 高圧ケーブル絶縁抵抗の一次判定目安(5000Vで測定時)

ケーブル部位 測定電圧(V) 絶縁抵抗値(MΩ) 判定
絶縁体 5000 5000以上
500以上〜5000未満 要注意
500未満 不良
シース 500又は250 1以上
1未満 不良

5表 高圧ケーブル絶縁抵抗の判定目安(10000Vで測定時)

ケーブル部位 測定電圧(V) 絶縁抵抗値(MΩ) 判定
絶縁体 10000 10000以上
1000以上〜10000未満 要注意
1000未満 不良
シース 500又は250 1以上
1未満 不良

引用:高圧受電設備規程

 

3表の下に以下の文言が記載されています。

なお、本測定法は、測定電圧が使用電圧より低く、ケーブルに重大な欠陥がないことの確認手段程度であり、3表の目安は劣化状態把握のための参考にしかならないため、G端子接地方式や直流漏れ電流測定等、より確実な試験を実施することが望ましい。」

このように、1000〜2000Vの電圧では適正な絶縁判定ができないということです。

実際に、PASがトリップした際に、何も原因追求せずにとりあえず1000Vで絶縁抵抗測定を実施した結果、良判定であったため再投入したら再度トリップして波及事故となった事例もあります。

以上のことから、年次点検などの電路の絶縁診断をする場合は5000Vまたは10000V、工事などの施工ミスがないかの確認は1000Vでよいと思います。

絶縁抵抗測定の目的は二つあり、一つは絶縁診断をする目的、もう一つは施工ミスがないかを確認する目的です。

施工ミスとはいわゆる結線ミスや工具による接地との接触、鋼材などの挟まれによる接地との接触です。

普通に施工していれば新設はもちろんですが、ケーブルが絶縁劣化することはないので単純な施工ミスを発見することが目的になります。

そのような場合は1000Vメガーで十分かと思います。

逆に、点検などによる絶縁診断が必要な場合は、しっかりと使用電圧に近い電圧を印加し、電路の劣化状況を判断する必要がありますので、5000Vや10000Vを印加するのがよいでしょう。

年次点検・・・5000Vまたは10000V印加
改修工事など・・・1000V印加

詳しい試験方法、G端子接地方式や直流漏れ電流測定などは、高圧受電設備規程に記載されていますので、よろしければご覧いただければと思います。

高圧の判定基準は低圧よりも高くなっている

高圧ケーブルの絶縁抵抗測定の判定基準は低圧回路よりもかなり高い値となっています。

高圧受電設備規程資料1-3-2 7表では、漏れ電流値の判定目安は線路亘長1km以上で1μA以下が良判定となっています。

低圧回路は1mAですので、1/1000の判定基準です。

この漏れ電流の判定基準は、上記の絶縁抵抗測定の判定基準の根拠になります。

絶縁抵抗許容値\(R=\displaystyle\frac{5×10^3V}{1×10^{-6}A}=5000MΩ\)

このように、オームの法則で計算できます。

5000Vを印加して、漏れ電流を1μAに抑えるためには5000MΩの絶縁抵抗が必要ということですね。

まとめ

低圧電路の絶縁抵抗測定の規定は電気設備技術基準に記載がありますが、高圧電路は絶縁耐力試験が基本となります。

しかしながら、既設の電路には破壊試験である絶縁耐力試験は好ましくなく、絶縁抵抗測定の実施が実情です。

施工ミスの発見程度でしたら1000V、絶縁診断の場合は5000V以上を印加することを推奨します。

それではまた、ご安全に!

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